おうし座
エネルギーの圧縮と放出
こちらは8月9日週の占いです。8月16日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
恐るべき饒舌
今週のおうし座は、ドフテエフスキー的な人びとのごとし。あるいは、自分のなかに「圧縮地下室を作っていく」ような星回り。
『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフにしろ、『地下室の手記』の「わたし」にしろ、ドフテエフスキーの小説には、自己自身に対して異様に饒舌な人物がしばしば登場します。
彼らは世間から存在をまるきり否定されたり、自尊心を傷つけられるたびに、恐ろしいほどの言葉を費やして、見る自分(意識)と見られる自分(意識下)との対話を高速回転させ、自家中毒的に自意識をこじらせることで、一種の不吉なエネルギーを生み出していくのですが、教育学者の齋藤孝はこうした過程を「圧縮地下室づくり」と呼んでいます。
とらえがたい欲望などの身体知の世界である意識下の自分を、自分の存在感を高めるためのエネルギー源として積極的に話しかけ、そこから戻ってきた感触をまた言葉にしていくことで、納豆のような発酵した感じを自身でつくり出し、それを時おりこれという人にぶつけることで一種の“祝祭空間”を現出させるのです。
むろん、ぐーっと貯めこんだエネルギーを一気に放出させる訳ですから、うまくいけばそれは広義の意味でエンターテインメントにもなり得るかも知れませんが、多くの場合、それは人間関係に後戻りできない変容をもたらすでしょう。
おうし座から数えて「無意識の奔流」を意味する4番目のしし座で8月8月夜に新月が形成されたところから始まる今週のあなたもまた、そうした稀有な祝祭体験をみずから求めていこうとする傾向が強く現われやすいかもしれません。
不浄を雅致に変えていく
日本の耽美主義を代表する作家・谷崎潤一郎(1886~1965)は、関東大震災をきっけに東京から関西へ移住し、作風もそれまでの大正モダニズムから日本の伝統的な美学が色濃く滲むものへ変わっていき、1933年末にはその時点で感得した美学と方法論とを『陰翳礼賛』という一般向けの随筆として発表しました。そこに厠(トイレ)をテーマにした次のような一節があります。
「統べてのものを詩化してしまう我等の祖先は住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。これを西洋人が頭から不浄扱いにし、公衆の前で口にすることさえ忌むのに比べれば、我等の方が遥かに賢明であり、真に風雅の骨髄を得ている。」
この箇所については、ちょうど同じ年に日本は国際連盟から脱退して孤立化の道を進み、既に戦争に向かいつつあった状況下で書かれたということと照らしても興味深いのですが、
こうして味気ない西洋文物への愚痴と日本の伝統美学への賛美を交互に繰り出していく谷座の名調子は、どこか今のおうし座の星回りに通底するものがあります。
すなわち、そこにはまず第一にみずからが取り込まれつつある状況への違和感の表明があり、次におのれが拠って立つために必要な‟支え”に対する揺るがなき饒舌がある。そうした意味で、今週のおうし座は、満を持して語るべき事柄が口をついて出てきやすいタイミングを迎えているのだと言えるでしょう。
おうし座の今週のキーワード
不浄にこそ美学は現る