おうし座
言葉と言葉のあわいを見つめる
清少納言の切れ味
今週のおうし座は、清少納言の「山際」という表現のごとし。あるいは、みずからの発語をひとつの事件として見なしていくような星回り。
日本三大随筆の一つとされる『枕草子』を書いた清少納言は、紫式部や和泉式部などひらがなを用いて日本文学史に残していった同時代の女性たちの中でも、特有の感性表出と歯切れのよい文体によって独自の位置を占めています。
簡潔でありながらも、繊細で鋭敏な清少納言の観察眼は、日本語で書かれた文をいったん英語に置き換えてみることで、その仕事の貴重さや奥深さがより一層はっきりしてくるように思います。
例えば、有名な冒頭の一節である「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる」。これが翻訳家であり詩人でもあるピーター・J・マクミランさんの手によって「In spring it is the dawn-little by little the sky above the peaks of the mountains becomes clearer, and the sky brightens just a bit as wisps of purplish clouds trail along.」となる。
空でもない山でもない、両者のあわいに注目して表された「山際」という言葉は、訳者の苦心によって「sky above the peaks of the mountains」と表されていますが、それでも言葉の多さが目立ってしまいます。やはり、語のひびきも含めて一言で言い切ってみせたところで、一つの文学が誕生していたのではないかと言っても過言ではないはず。
4日夜におうし座から数えて「言葉の力」を意味する3番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、改めてコトバを研ぎ澄まして発することの恐ろしさと力強さとに気が付いていくはず。
クレーの日記より
第一次世界大戦が始まった頃、画家パウル・クレーは自身の日記に次のように書きつけていました。
「この世に生きるべく鼓動していたわが心臓は、とどめをさされて息果てんとしていた。私は考えた。<これらの>ことと私とを結ぶものは、ただ想い出に過ぎなくなるのだ。」
「私はこの肉体を捨て去り、いまや透明な結晶体となるのだろうか。」
この「透明な結晶体」という文言はやがてクレーの中で「冷たいロマン主義」という言葉となって、以後彼の思想の中核をなしていきましたが、実はおうし座というのも、普段どんなにマイペースに見えようと、必ずどこかにそうした「冷たいロマン主義」のようなものをを秘めている人たちでもあります。
その意味で今週のおうし座は、普段は胸に秘めている憧れや願望、感動を、具体的な文脈と結びつけつつ、どれだけ純粋な状態へ結晶化させていけるかが問われていくでしょう。
今週のキーワード
冷たいロマン主義