おうし座
現実を肯定するための技法
※2021年1月4日~1月10日の占いは休載とさせていただきます。(2021年1月3日 追記)
氷を打ち砕け!
今週のおうし座は、氷りの溶けた海のごとし。あるいは、リアリティの浮き彫り作業に粛々と励んでいくような星回り。
生を現にそれとして生きているとき、そのあまりの間近さのため、また騒々しさと慣れのために、現実を現実として感じとることができず、さながら氷が張って凍結しその本来の豊穣が縮減された寂しい光景としてしか映らない。
紅茶とマドレーヌや、石畳の道のイメージから、プルーストというとどうしても懐かしい追憶の日々を想う甘ったるいノスタルジー文学のイメージが先行しますが、死後に出版された未完成のエッセイ「コントレサントブーブ」では、芸術という営みについて次のように語られています。
「ぼくたちが行うことは、生の源[原初の生]へ遡ることだ。現実というものの表面には、すぐに習慣と理屈[理知的推論]の氷が張ってしまうので、ぼくたちはけっしてなまの現実を見ることがない。だからぼくたちは、そうした氷を全力で打ち砕き、氷の溶けた海[現実]を再発見しようとするのだ」
ここでは徹底して「現実」こそが問題になっており、それはよく知っているはずだと思っていたのに実際にはよく知らずに来てしまった「原初の生」のことでもあり、プルーストにとって文学とは、生否定、世界否定のニヒリズム(氷)の向こうに広がるありうべき現実の肯定のための技法だったのではないでしょうか。
30日におうし座から「生まれ直し」を意味する3番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、プルーストにとっての文学に代わる技法としての何かを自分なりに再認識していくことができるかも知れません。
不完全の美
どんな人間であれ、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、例えば岡倉天心は「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される」という言い方で肯定的に捉えていこうとしました。
「はかなさ」とはこうした自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦であり、人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就させんとする覚悟を伴った美意識だったのです。
今のあなたもまた、そうした「不完全の美」を具体的な文脈でいかに自分なりに成就させていくことができるのかを改めて問われているのかも知れません。
今週のキーワード
美の原石としての現実