おうし座
古いじぶんと新たなじぶん
大それた試みを
今週のおうし座は、オマル・ハイヤームの『ルバイヤート』の一節のごとし。あるいは、「宇宙を捨てる」くらいの気概を抱いていくような星回り。
11世紀ペルシアに生き、数学、天文学、史学など数々の分野における多くの偉業を遺した学者であったオマル・ハイヤームの、その死後に公表された詩集が『ルバイヤート』。
そこでは「われら、いずこより来たりて、いずこへ去っていくのか」という人類が決して解くことのできない謎への思いが、悠久の大河の流れにも似た調べで歌われていくのですが、その中に次のような一節があります。
「思いどおりになったなら来はしなかった。思いどおりになるものなら誰が行くものか?この荒家(あばらや)に来ず、行かず、住まずだったら、ああ、それこそどんなによかったろうか!
(中略)
神のように宇宙が自由に出来たらよかったろうに、そうしたらこんな宇宙は砕きすてたろうに。何でも心のままになる自由な宇宙を別に新しくつくり出したろうに。」
これぞユーラシア大陸!これぞアラビアン・ナイト!
そう言いたくなるほどに、何ととんでもなく、すっとぼけた言葉の連続でしょうか。こんなにもユーモアたっぷりに、そしていとも楽々と「宇宙を捨てる」とか「宇宙をつくる」といった大それたことが歌われているのを聞くと、思わず脱帽したくなってきます。
7月5日におうし座から数えて「大きなスケール感への開け」を意味する9番目のやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、知らず知らずのうちにはまりこんでいた常識や思考の枠組みをエイヤと踏み越えていくだけの勢いが不思議と湧いてくるはずです。
カルナック航法
ここでひとつ特異なSF小説の一節を引用しておきたいと思います。
リイリイはスマックについて説明した。
「カルナックのお化けとでもいったらいいかな。あの連中は、二重人格の分身で、夜になると宿主から遊離して来るらしい。でも、普通の二重人格ではないのよ。あれが<虚体>なの。影ね」
「わたし」はリイリイと関係しているさなかに、外からスマックが中をうかがっているのに気がついた。よく見るとスマックは、ほかならぬ「わたし」であり、「わたし」の虚像であった。(荒巻義雄、『緑の太陽』)
この「カルナック」とは、光速をはるかに超える速度で非時間的非空間を飛行する航法を開発した天才科学者の名で、「わたし」はなぜだかそのカルナック航法についてよく知っており、さらに同航法で飛行する船に乗っている。つまり、「カルナック博士」と「わたし」は同一人物であり、さらに「スマック」も含めた三重人格者のご登場(搭乗)という訳です。
<実>なるものから<虚>なるものへ、<虚>なるものから<実>なるものへ。そして最初の実と後の実が同じ一つの実とは限らない。
そうした転換の可能性をあなたもまた生きているのです。
今週のキーワード
新旧交代劇