おうし座
痛みとそぎ落し
目に筆を入れる
今週のおうし座は、「目を入るるとき痛からん雛の顔」(長谷川櫂)という句のごとし。あるいは、ささやかながらもまた新たに命脈をつないでいくような星回り。
最後の下五までいたって、やっとパッと意味が氷解するように作られた句。おそらく女雛だろう。
白く可愛らしい女雛の顔に、筆で目を書き入れているところだが、「痛からん(痛いのだろう)」と類推しているのは作者だとして、直接的に痛みを感じているのは誰か。まず女雛であり、つぎに筆を入れた人形師であり、そしてこの句をよんだ読者に他ならない。
これら三者が痛みを感じた時にはじめて雛に命は宿り、人形師は自身の分身をこの世に送り出したことに気付くのだ。さらに、この句そのものもまた、最後の「雛の顔」まで詠まれた時、読者のこころと交わっていく。
画竜点睛とはまさにこういうことを言うのだろう。ある種の共感魔術なのだ。
3月3日におうし座から数えて「血肉化」を意味する2番目のふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、ここしばらく関わってきた新しい自分の確立に、いよいよ最後の仕上げの機運が巡ってくるはず。
自分自身を刻む
ルネッサンスを代表する彫刻家ミケランジェロが人類に残してくれた遺産のひとつに、次のような言葉がある。
「余分な大理石がそぎ落とされるにつれ、彫像は成長する。」 (The more the marbles wastes, the more the statue grows.)
先の「痛み」の本質にあるのも、こうした「そぎ落とし」なのかも知れない。今週のおうし座もまた、ひとつ彫刻家になったつもりで、本質だけを残して、ノミで余分なものはそぎ落としていくといいだろう。
ただし間違っても、自分を無力などとは思わないこと。それは甚だしい誤解であり、逆にそうやってすぐに「無力の国」を作りあげ、あなたをそこへ閉じ込めたがる他者こそ、そぎ落とすべき対象の本丸なのだと覚えておいてほしい。
今週のキーワード
入魂の儀式