おうし座
忘れがたい匂い
忍び込んだ先で
今週のおうし座は、「父を嗅ぐ書斎に犀を幻想し」(寺山修司)という句のごとし。あるいは、無難な言葉と共に、不穏な情念をもさらけ出していこうとするような星回り。
家族について詠まれた俳句はどこか甘くなるか、逆に辛くなるかのどちらかに傾くきらいがありますが、だからこそ、ただ手放しの賞賛となっても、切り捨てる否定となっても、あまり魅力を感じません。
その点、父の匂いを「犀(さい)」に喩える掲句では、書斎をもち知識が豊富な父に対し尊敬の念を抱き、その父がすぐそばに感じられることを恋いつつも、その匂い中にかすかに潜む獣性に怖れを感じる葛藤が表される点で、ただ感謝するのみのような無難な作品とは一線を画しています。
心の奥までさらけ出したような言葉には、必ずある種の毒や苦味があるものですが、それが日常の何気ない描写と重ね合わせられた時にこそ、後を引くような絶妙な違和感となってそれを見聞きした人の記憶に残るのではないでしょうか。
その意味で、19日(水)に太陽がおうし座から数えて「悪魔さえ怖れる一歩」を意味する11番目のうお座へと移っていく今週のあなたもまた、大胆かつ巧妙におのれの生の領域を拡張していかんとすることでしょう。
闇と戯れる
岡崎京子の『Blue Blue Blue』に、このような独白が出てきます。
「匂いはいつもあやうい。ことばではない何か。何かが反応してしまう。匂い。夏の。夜の。アスファルトの。あなたの。匂い。」
まとっている闇が深ければ深いほど、その中で立ちのぼってくる感覚や印象は鮮烈になっていくもの。そういうことを、かつての日本人は当たり前に体感していましたし、上手に楽しんでもいました。
例えば、集まって月の出を待つ「月待」や、怪談を語りあう「百物語」、野山に繰り出す蛍狩りや虫聴きなど、さまざまな機会を持っていたのです。
つまり、ふつうの日にはわが家の闇に身を浸して眠りにつき、特別な夜にはいろんな闇へと繰り出しては闇に親しみ、夜更かしや徹夜をしていました。そこにはもちろん光もありましたが、あくまでそれを包む圧倒的な闇への感覚をむしろ際立たせるためのささやかな‟呼び水”だったのです。
今週は、いろんな意味で理性の「灯り」をOFFにしていくことを心がけていくといいでしょう。
今週のキーワード
遊ぶは夢とうつつのはざまにて