おうし座
エロスとタナトスの交錯
「深い闇の底のあやしい明り」
今週のおうし座は、眠れる美少女あるいは生きた人形のごとし。すなわち、命の手触りを感じられるくらいの安心を手にしていこうとするような星回り。
川端康成の『眠れる美女』という小説は、薬で眠っている裸の女の子と添い寝をすることができる海のそばの秘密の娼館にハマった老人・江口の、「眠る美少女」への偏愛とエロティシズムに満ちた変態妄想譚です。
が、しかしそう思って読み進めていくと、次第にこの小説の焦点は官能的な昂ぶりというよりは、冥界の底に沈みこんでいくような不思議な静けさにあるのだということに気が付いていくはず。
そして、主人公が自分はいったい何にハマったのかという自問自答こそは、今週のおうし座にとっても非常に重要な指針となるように思うのです。
「娘が決して目をさまさないために、年寄りの客は老衰の劣等感に恥じることがなく、女についての妄想や追憶も限りなく自由にゆるされることなのだろう。目を覚ましている女によりも高く払って惜しまぬのもそのためなのだろうか。眠らせられた娘がどんな老人であったかいっさい知らぬのも老人の心安さなのだろう。老人の方でも娘の暮らしの事情や人柄などはなにもわからない。それらを感じる手がかりの、どんなものを着ているのかさえわからぬようになっている。老人どもにとってあとのわずらわしさがないという、そんななまやさしい理由だけではあるまい。深い闇の底のあやしい明りであろう。」
眠る美女にあるのは、「深い闇の底のあやしい明り」だという。これは死であると同時に新たな生を孕んでいるような、死の門をこえたはるか先に在る冥界の底。すなわち、生まれ変わりへの魅惑なのかもしれません。
終わりが想像できないもの
相手が人間であれ何であれ、実際に対象との距離がつまり、十分な接近を果たすことによって初めて、対象の真の姿やリアルな生の実態は見えてくるもの。
けれど、そうまでして肉迫したいと思わせてくれる対象というのは稀であって、たいていどこかで面倒になってしまったり、関心が薄れてしまってそこでEndマークを迎えるものです。
逆に言えば、腐れ縁のようになぜかこだわってしまってなかなか終わりが想像できない、どうしても思い描けない相手というのは、その存在自体であなたがいのちの感触を感じとられる対象なのかもしれませんね。
真に手を伸ばすべき対象は、すでに身の周りに転がっているものです。そんなことも今週は改めて胸にとめておきましょう
今週のキーワード
冥界の底へ下りていく