さそり座
置いてきた想いを回収していく
「金魚の忘れもの」
今週のさそり座は、「日曜の駅に金魚の忘れもの」(一ノ木文子)という句のごとし。あるいは、どこか誰かの元に置いてきてしまったような感情を、引き取っていこうとするような星回り。
きっと土曜の夜にでも、誰かが縁日ですくってきた金魚なのでしょう。透明なビニール袋の中でこちらを見つめている無邪気な顔を目にして、駅員もさぞかし処置に困ってしまったに違いない。
そう、駅に金魚は決定的に場違いなのだ。
けれど、得てして私たちは、状況にふさわしい必然的な感情ばかり抱くわけではなく、時として場違いな感情を感じてしまうことがあります。
喜ぶべき状況で悲しくなったり、警戒し用心深くなるべき時に面白く、嬉しくなってしまったり。
大抵、そうした場違いな感情というのは無視されてしまうものですが、さならが「金魚の忘れもの」のように、そうした感情そのものがなくなる訳ではなく、ただどこかに置いてきぼりにされているだけなのです。
そうしてあなたがいつかどこかで置いてけぼりにしてしまった場違い感情を、もし今改めて思い出せるなら、今度こそはまぎれもなく自分の感情として引き取っていきましょう。
『魔の山』のハンス
「ひとりの単純な青年が、夏の盛りに故郷ハンブルグを発ち、グラウヴェンデン州ダウオス・プラッツへ向かった。三週間の予定で人々を訪ねようというのである」(トーマス・マン、『魔の山』冒頭)
山の上にあるサナトリウム(当時は不治の病であった結核患者のための療養所)に入っているいとこの見舞いに行った主人公の青年ハンスは、結果的に長期滞在を余儀なくされてしまいます。
3週間が1年になり、1年が2年になり、さらに数年が飛ぶように過ぎていき、その間にごく平凡な青年だった主人公は、世界中の国々から集まった、様々な考えを持つ患者たちと触れ合ううちに、物事について深く考えるようになっていっていく、というお話。
このハンスという人物はまさにあなたがかつて「置いてけぼりにした感情」を擬人化した姿と言ってもいいでしょう。
しかしそんなハンスもいつかは山をおり、ふたたび日常へと戻っていく。呼び寄せるのはあなた。今がまさにそんなタイミングなのかもしれません。
今週のキーワード
浦島太郎の玉手箱