さそり座
じわじわ影に迫る
ルンゲ警部登場
今週のさそり座は、自分自身の影を追う探偵のごとし。あるいは追跡、尾行、観察、そして深い同調の暗示。
浦沢直樹の『MONSTER』という漫画に、冤罪に巻き込まれやむを得ず逃亡犯となった主人公を、じわじわと追い詰めていく「ルンゲ警部」という人物が登場するのですが、どこか漫画を通じた彼の変化を彷彿とさせるような星回りです。
うすうす感づいている潜在的なリアリティーの真相を、ここで徹底的に再検証していくのか、既に抱いている感情のもと即断して終わらせるのか、一つの分岐点を迎えていくでしょう。
■ハインリッヒ・ルンゲ
BKA(ドイツ連邦捜査局)の局内きっての敏腕警部。
驚異的な記憶力を持ち、架空のキーボードを打つことで頭の中のコンピュータへ入力し、詰め込まれた事実から、犯人の気持ちになりきり犯行を予想していくという独特の推理方法で、犯人の動機や殺害方法を導き出していき、本人いわく今までに解決できなかった事件はない。
ただ、冷徹怜悧なことと執拗な捜査姿勢、単独行動主義な性質から、周囲と齟齬が絶えず衝突も度々起こす。
妻と娘がいるが家族サービスよりあくまで仕事優先なため、家族との関係は希薄で、娘の妊娠にさえ気づかなかった事を機に愛想を尽かされ逃げられる。
ストーリーを通して絶えず無表情を貫くが、終盤、真相が明らかになっていくにつれ表情に微妙な変化が生じていく。
特別な清々しさ
ここで問われるのは、正義や悪という言葉に惑わされたり、レッテルを貼って思考停止させてしまうのではなく、最後まで「自分の心で考える」ということを続けられるかどうか、ということなのかも知れません。少なくともルンゲ警部はそれを実行しました。
結果的に、彼は自分の間違いを認め、刑事としての人生をやめることで、生き方を一変させます。
そして、刑事であったがために失った家族との連絡を取り始めていく。彼がストーリーの最後に求めたのは、徹底的な追求に殉ずることではなく、自分が置き去りにしてきたものとの心からの和解だったのです。
そんな彼の姿には、人生を懸けて何かをやりきった人間にしか出すことのできない、特別な清々しさがありました。
今の自分の状況を、ルンゲ警部ならどのように行動したか、ぜひ一度想像されてみてください。
今週のキーワード
浦沢直樹『MONSTER』のルンゲ警部、自分の心で考えること、やりきった先の自然な変化変容、徹底追求か和解か