
さそり座
不条理を超えていくために

霊能者としての草薙素子
今週のさそり座は、<人形使い>と結婚した草薙素子のごとし。あるいは、ある種のチャネリングを通して、個人的/生物的な行き詰まりを突破していこうとするような星回り。
科学哲学者のアーサー・ケストラーは『機械の中の幽霊』において、私たちが「結婚」するのは、遺伝子の揺らぎを獲得し、システムの破局を超えるための多様性を得ていくために必要だから、というアイデアを示していました。
ケストラーの考えでは、ある行き詰まりを迎えたシステムは、その限界を超えるためにどこかで「創造的進化」を遂げていく必要があるわけですが、ここで思い出されるのが士郎正宗の『攻殻機動隊』であり、その主人公で公安9課に所属する全身義体のサイボーグで、「少佐」というコードネームで呼ばれる草薙素子です。
彼女が初めて登場するシーンは、脳神経を都市に接続し、ノイズだらけの暗号を開いているところでしたが、士郎は明確な意図を持って、彼女をそうした都市、政治、企業などの思惑が複雑に絡まり合った全体情報(ホロン)にアクセスし、読み、チャネリングするある種の「霊能者」として描いていました。
凄腕ハッカーとして知られ、その実はすでに肉体を捨てた高度な情報集積体となって、ほとんど神のようなものとして描かれていた<人形使い>と素子は、作品のクライマックスで融合していくのですが、そこでも二人の融合は「結婚」という言葉で表現されています。これは素子の立場からすれば、情報ネットワークの全体を見渡すことのできる<人形使い>の視点を手に入れ、彼女(の認識)は身もだえとともに「上部構造にシフト」する。
その意味で、このシーンは単純な機械的な積み上げとは異なる、創造的な思考の働かせ方の寓意でもあったはず。7月7日にさそり座から数えて「融合」を意味する8番目のふたご座に「高次の思考」をもたらす天王星が移っていく今週のあなたもまた、狭苦しい自分の思考を拡張してくれるような、<より大きなもの>と接触していくことができるかも知れません。
再生のための試練
誰もが病いやそれに近い症状、そのリスクを抱え込んでいる現代社会において、特に厄介なのが、精神病とも神経症とも異なるために「境界性(ボーダー)」と呼ばれ、その根底に自己愛の問題があるために、境界性パーソナリティ障害と名付けられている一群のグループです。
医師で作家の岡田尊司によれば、そうした悩みを抱えている人たちは90年代以降急増しているため、もはや「現代社会病」と呼んでも差し支えない面があり、特に「若い年齢性」や「女性」に多く、その頻度は男性の約4倍であるが、次第に男女間の差も縮まりつつあるのだと言います。もちろん、ボーダーと一口に言っても、ベースの性格によってさまざまなタイプに分かれるのですが、その一例として、やはり「現代社会病」の一つである自己愛性パーソナリティ障害と合併したケースについての一節を引用しておきます。
傲慢で、自己特別視が強く、情よりも利で動くタイプを自己愛性パーソナリティと呼ぶが、自己愛性パーソナリティ自体は、強い自信によってストレスをはね除ける力をもつ、安定した人格ということが多い。しかし境界性とオーバーラップしたタイプでは、自己愛性の特徴に加えて、非常に不安定で衝動的で、自己破壊的な傾向が加わることで、本人の激しさに周囲はしばしば苦しめられることになる。本人も見かけの強さからはうかがえない脆さや孤独、劣等感を内面に抱えており、依存対象を必要とする。特定の一人、二人の人間だけにその弱さを見せるということもあるが、その部分をうまく受け止めてもらえないと、激しい攻撃や支配、パラドキシカルな反応を見せる。(『境界性パーソナリティー障害』、2009)
岡田は「境界性パーソナリティ障害は、自己を確立するための産みの苦しみ」であり、「それは、病というよりも、一人の人間が、これまで背負ってきたものを一旦清算し、大人として生まれ変わり、再生するための試練」に他ならないのだといい、もし本人だけでなく、支えている人たちの気力が尽きることがあれば、「そんなときは、結果を急ぎすぎているのだ」とも言及しています。
今週のさそり座の人たちも、自身や身近な相手との深く関わる上で知っておかなければならないこと、受け止めていかなければならないことを見定めていきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
結果を急ぎすぎてはいけない





