
さそり座
妖怪的現象

ねじれた交わり
今週のさそり座は、『春星や湯屋から帰る修道女』(大津日出子)という句のごとし。あるいは、普通なら結びつき得ないようなもの同士を瞬間的に結びつけていこうとするような星回り。
冬から春に季節が変わると、まず星の見え方が変わっていきます。どこかこちらの手の届かない遠くで孤独にまたたいていた星が、少し近くで潤んでいるように見えてくるのです。
掲句ではそんな「春星」をなんと「修道女」と結びつけるという斬新な取り合わせが試みられています。両者をつないだのは湯屋すなわち銭湯帰りのぬくもり。それは触覚的なしめり気であると同時に、言語感覚的な情緒とも言えるかもしれません。
いずれにせよ、春星と修道女という視覚的にかなりエッジの立った組み合わせに、別の感覚を付与して読者を刺激する「共感覚転移」と呼ばれる仕掛けが施されており、読者の方でも飛躍をしぜんと受け止められるようになっているはず。
つまり、ここでは春星と修道女はただ並行的な次元に置かれているというより、それぞれが基本的にはまったく異なるレイヤーにありながらも、並行でも垂直でもないねじれを介した1点で奇跡的にその瞬間つながってしまったような関係にあるわけです。
これは日常的な人間関係に置き換えれば、かなりアクロバットな交わりであり、ある種のイレギュラーな接点とも言えますが、2月5日にさそり座から数えて「他者」を意味する7番目のおうし座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたは、そうしたイレギュラーな交わりを積極的に作り出していくことがテーマとなっていくでしょう。
現象としての“妖怪”
たとえば夜、川や谷で「シャリシャリシャリ」という、あずきを洗うような音がする。それは小豆とぎという妖怪が音を出しているのだ。そんな伝承が、かつては日本各地に残っていたそうです。
今どき妖怪なんて言えば、無知や妄信のレッテルを真っ先に貼られてしまいそうですが、しかし水木しげるや彼のよき理解者たちが口々に言っているように、そもそも妖怪というのは近代的知性によって「解明」され「克服」されるべき対象などではなく、ただ「感じる」ものなのです。
先の「小豆とぎ」という妖怪の存在にしても、濃い闇の感覚、水の流れる音や虫の声とは別に聞こえてくるかすかな物音、確かにそこに何か動いているものがいる気配、といった否定しようがない身体体験への感じ取りや取り合わせが前景化していった時に、ひとつの現象として仮の名称を与えられたものだと考えれば合点がいくのではないでしょうか。
今週のさそり座においても、そうした目に見えない、音や気や、不可解な「感じ」としか言いようがないものが結びつくことで、これまで見えていなかったもう1つのリアリティーを作り出すきっかけとなっていくはずです。
さそり座の今週のキーワード
1つの現象とは複数の取り合わせの前景化である





