さそり座
かすかな違和感から
タイムスリップした感覚
今週のさそり座は、「初春や島田おもたきタイピスト」(日野草城)という句のごとし。あるいは、ひとり粛々とセレモニーに入っていくような星回り。
この句は昭和のはじめのオフィスの光景。当時はまだ珍しかったであろうモダンなオフィスにモダンな職業婦人であるタイピストが働いているはずなのですが、ふだんは洋装の彼女たちも初出勤は和装だったのでしょう。
「島田」とは日本髪において最も一般的な髪型である「島田髷(しまだまげ)」のことで、未婚の女性や花柳界の女性が多く結ったと言いますから、今でいうハーフアップや編み込みのアレンジといったところでしょうか。
新年最初の出勤は和装でいってみなで初詣に出かけるといった昔の名残をのこしたような風習も、今ではすっかり失われてしまったどころか、リモートで出社そのものさえ行わない職場も少なくないのではないでしょうか。
その意味で、島田髷が重たいなと感じながらタイピングしているというところなどは、まるでタイムスリップでもしたかのような感覚に近しいものを感じるはず。
1月7日にさそり座から数えて「儀式」を意味する6番目のおひつじ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、すっかり形骸化してしまった日常に喝を入れ、再構築していくことがテーマとなっていくはずです。
奇妙な静寂のその先で
エラン・コリリン監督の『The Exchange』(2012)には、なにか分かりやすく特別な出来事が起きたり、巧妙なプロットがある訳ではありません。博士課程に在籍する大学院生が忘れものを取りに家に戻ると、一日のその時間帯に眺める自分の部屋がどこか異質なものに感じられたという体験をするのです。
こうした体験自体は、例えばいつも職場で忙しく働いている時間帯に、自宅のリビングのソファーに呆けて座っている時に感じる、居心地の悪さを通り越した“奇妙な静寂”として経験したことのある人も多いのではないでしょうか。
慣れ親しんだ世界から、決定的に切り離されてしまった主人公は、その後窓の外にホッチキスを放り投げたり、茂みの中にじっと立ってみたり、アパートの地下室の床に寝そべったりといった行為に及んでいく。彼はもはや「日常生活を営むふつうの人」ではなく、周囲に広がる光景やモノ、物理法則に初めて遭遇する宇宙人のようになってしまったのです。
それは言い換えれば、現実の枠組みの中から何かをのぞくのではなく、現実そのものに目を向けるようになったことで、方向感覚を見失い、知らず知らず惰性的になってしまっていた注意の向け方や好奇心を解放させられたのだとも言えます。
今週のさそり座もまた、いつも通りのルーティン的なプロセスから離れて、モノや人が存在するという深遠な事実そのものと向き合っていくことになるかも知れません。
さそり座の今週のキーワード
初めて日常に遭遇する宇宙人のように