さそり座
水面へ浮上してくるもの
贈与の記憶
今週のさそり座は、『林檎剥くときは優しい顔をする』(相沢文子)という句のごとし。あるいは、贈与にまつわる深い記憶を引き出していこうとするような星回り。
試しに「林檎 剥く」で検索してみると、トップに「リンゴ農家の嫁が教える!1分で簡単 まな板を使わないりんごのむき方のコツ」という記事が出てきたのですが、この結果には奇しくも「林檎を剥くときの顔」になぜかにじみ出てくる「優しさ」のニュアンスが端的に表れているように思います。
つまり、「林檎」というアイテムには、誰かから誰かへと直接手渡されるアナログさだったり、贈り物に含まれるどこか甘酸っぱいような情感がある種の土臭さとつねにセットになっていて、掲句にはそうした「林檎」が読者の生活に入り込む余地について、ストレートに問うてくるような響きがあります。
掲句のように優しくしてもらった記憶に、あなたはこれまでどれだけ助けられてきたでしょうか。逆に、あなたが最後に誰かのために林檎を剥いてあげたのは、一体どれくらい前になるのか、と。
「優しい顔」の裏には、必ずそうした贈与の応酬が秘められているのです。その意味で、2月3日に自分自身の星座であるさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、こんな暗い時代だからこそ、林檎を剥いたり剥かれたりする時間くらい確保していきたいところです。
「sleep it over(一晩寝て考える)」
この成句は、発見とか創造とか大それたことでなくても、深夜に何事か思い悩んだとき、そのまま無理に結論を出すのではなく、一晩寝て朝起きてから得られる考えの方が結果的に優れていることが多いことを生活の知恵でとらえた言葉なのでしょう。
例えば、史上最大級の大数学者のひとりとされるガウスがある発見の記録の表紙に「1835年1月23日、朝7時、起床前に発見」と書き入れたように、確かに着想のあらわれ方の“くせ”を知っている歴史上の天才たちもまた、こうした“待ち伏せ”を成功させてきたものです。
『知的創造のヒント』を書いた外山滋比古もまた、「どうも考えは一度水にくぐってくる必要があるように思われる」とか、「“しばらく忘れるともなく忘れている”と、おそらく無意識のうちに熟していたであろう考えが突然踊り出る」などと書いていましたが、こうした習慣的な体験知というのは実際に自分で実践してみないことにはピンとこないはず。
今週のさそり座にとっては、こうしたノウハウは贈与の記憶を引き出し、顔に宿していかんとしていく上でも、まさに絶好の使いどころとなっていきそうです。
さそり座の今週のキーワード
無意識のうちに熟していたであろう感情も突然踊り出る