さそり座
よどみと流れ
冬籠りの記憶
今週のさそり座は、『冬籠りまたよりそわん此の柱』(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、過去を通して現在との生き生きとした遭遇を経験していこうとするような星回り。
旅の疲れを癒すために、深川の粗末な草庵で幾度となく冬籠りをしてきたことを思い返して詠んだ一句。
ある時は一人で閑静の時間を楽しみ、またある時は仲間たちと世俗を離れた風流な遊びに興じていた自分だったけれど、考えてみればいつも「この柱」を背にしていたのだ、と。
つまり、この柱こそが心安いわが家そのものであり、いい時もわるい時も、どんな時も自分を支え、寄りそってきてくれた一番の相棒に他ならなかったわけです。
そのことに思い至ったとき、それまで何気なく送ってきた平凡な日常が、作者の中でかけがえのない記憶へとサッと変容していったはず。ただそれは単に過去を思い出すというだけの、後ろ向きの出来事ではなく、今ここの瞬間に起きている「真の生」に、初めて出くわす体験でもあったのではないでしょうか。
過去を経由することを通じ、私たちははじめて現在と遭遇できるというパラドキシカルな認知回路を持っており、それを活性化できる言語装置こそが「文芸」なのかも知れません。
1月21日にさそり座から数えて「心的基盤」を意味する4番目のみずがめ座へと冥王星が移っていく今週のあなたもまた、過去と現在をまたいで“そこ”にありうるものの中へと溶け込んでいくべし。
スエズ運河の開通
今週のさそり座は、どこか「スエズ運河」の開通を思わせます。地中海と紅海を結ぶスエズ運河は、古代から計画案が在りつつ何度も頓挫した末に、多大な時間と労力をかけて19世紀後半にようやく開通した人工運河で、今では世界の流通を支える重要航路となっています。
今週のあなたもまた、自分の中にある別々の海と海とをつなぐ航路の開通の瀬戸際にあるのだとイメージしてみてください。そして孤立した内陸地帯でさまよっていた自身の感情や考えを、広い海へと解放していくチャンスが迫りつつあり、あなたに生き生きとした生の実感をもたらす記憶やイメージのひとつひとつが誘導灯となって“航行”を導いてくれるはず。
ただ同時に、そこでは自身を慎重に海へと方向づけていかなければなりません。特に過去への固執や、一般的な慣習にただ従うだけの怠惰には気を付けてください。
広い海へと出るはずが、元の湖に逆戻りしていたり、途中で座礁するリスクを避けるためにも、身体的、社会的、霊的に自らがどこへ向かいつつあるのか、どこまで醒めた目でそれらを観察していられるかを、今あなたは試されているのだと言えるでしょう。
さそり座の今週のキーワード
過去を経由して現在と遭遇するというパラドキシカルな認知回路