さそり座
天地有情ということ
命と縁起
今週のさそり座は、『秋の航(こう)一大紺円盤の中』(中村草田男)という句のごとし。あるいは、切れたと思っていたつながりが偶然にもつながっていくような星回り。
「紺」は紫がかっている暗い青。洋上の大景を「一大紺(いちだいこん)」と感じ取り、さらに畳みかけるかのように「円盤の中」と捉えられたその把握力には驚かされるものがあります。
この句を詠んだ時、作者は20代後半から俳句を始めて間もない28歳。師について回った北海道旅行で、初めて見た青函連絡船に強い印象を受けて書いた句といわれています。もともと神経衰弱の治療もかねて俳句を始めた作者でしたが、内へ内へとこもりがちであった作者の精神が、ここで詠まれた見渡す限り紺一色の大海原に感応することで、自身の衰弱ぶりを克服し、逆に一気に外へ向けて発露していく端緒を得たのでしょう。
意図して得られたものではなかったからこそ、その感動もひときわ大きかったはず。そして船の航海を人生の道行きと重ねるなら、こういう偶然が訪れるのはきまって周囲を見渡してもどこにも一切の陸地が見えない時、すなわちどこにも頼る先がなく、誰からも切り離されて、ただちっぽけな存在である自分が漂い流れているように感じられた時なのではないでしょうか。
15日にさそり座から数えて「ネットワーク」を意味する11番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、思い切って果ての果てまで行き切ったところで、自分を包みこむ大いなる何かを感得していくことがテーマとなっていきそうです。
「あはれ」をつかむ
世の中には、そして私たちの人生には、思わず目を背けたくなるような残酷な現実がゴロゴロとそこら中に転がっているものですが、今あなたはどこまでその事実に意識を向けられているでしょうか。あるいは逆に、どれだけ目を背けているのだろうか。
例えば、地球を直径1メートルほどのボールだと仮定してみたとき、地球上の生きものたちが生息することのできる大気圏の幅は、わずか紙1枚分の厚さしかないのだとか。
日頃どれだけ見たくない現実から目を背け続けていたとしても、あなたはそんな生存圏を他の誰か何かと既に共有しており、隣人に囲まれている訳で、さらにいえば彼らの感情や訴えに取り囲まれるかたちでこれまで存在してきたし、これからも存在していく。
空も大地も、動物や植物たちも。今週のあなたは繋がろうと思えばどんな相手でも繋がれる環境を、存分に活用し、楽しんでいくくらいの姿勢が問われていくはず。
例えば、かつて哲学者の大森壮蔵は、エゴや頭の良さとは「世界と人間との間に立ちはだかる薄膜」であり「世界と人の直接の交流を遮断している元凶」に他ならず、それを否定し、刺し貫いて「物にじかに触れる」ことによって内側から立ち現れてくる「天地有情」の感取こそ、日本が大事にしてきた「あはれ」の美学の源なのだと喝破しました。
今週のさそり座もまた、そうした「あはれ」を感じとっていくこと自体が一つの救済となっていくでしょう。
さそり座の今週のキーワード
自分の心の中の感情だと思い込んでいるものは前景に過ぎない。