さそり座
個性の秘訣
その土地ごとの味がある
今週のさそり座は、『家々や菜の花いろの燈(ひ)をともし』(木下夕爾)という句のごとし。あるいは、じっくりと醸成されてきた自身の個性がぱっと咲いていくような星回り。
作者は都会に憧れながらも、生涯生まれ育った広島の地を離れることがなかった人。掲句においても、また素朴な調子で田園風景を描き出しています。
夕暮れていく田園地帯のなかで、家々にともっていく明かりのことを「菜の花いろ」と喩えているところなどは、作者の生き様がよく現れているはず。
菜の花の明るい黄色には、長く厳しい冬を生き延びてやっと春を迎えられた喜びや、食べたときのどこかほろ苦い味わいだったり、花言葉のひとつである「小さな幸せ」だったり、作者が身をもって体験してきたさまざまな意味合いが込められているのでしょう。
毎年同じ場所で同じように咲く自然と違って、人間はついつい分かりやすい「成長」を求めたり、「変化」することが充実感の証しだと思い込みがちですが、こういう句を鑑賞していると、作者のようにどっしりとひとつの土地に根をおろして暮らすことで初めて出てくる味わいというものも、間違いない他にない個性なのだと感じます。
同様に、2月6日にさそり座から数えて「文化形成」を意味する10番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身がもっとも深く根づいてきた場や共同体からの影響を改めて実感していきやすいでしょう。
天に笑ってもらうには
俳句や短歌に触れて人が心を奪われるのは、詠み手がそこで自分自身を捧げているからであって、その逆に、何かを器用に自分に従わせているからではありません。
掲句にしても、技巧的に上手な俳句かと言われれば、決してそうとは言えないでしょう。しかし作者がおのれの生きてきた時間をそのまま句に捧げ、注ぎ込まんとする姿勢が、かえって他にない個性を光らせている。それがこの句のいのちです。
その意味で、かりに華麗なテクニックやもの書きとしての器用さを競っているような人がこの句や作者を嘲笑することはあっても、そんな作者のことを天は決して馬鹿にしませんし、むしろ「こいつめ」と笑って受け入れてくれるはず。
すなわち、つまらない自分やがんじがらめの自我を放りだした時に不意に出る「軽み」にこそ、個性というものの秘訣はあるのかも知れません。今週のさそり座は、人に笑われることを怖れず、何よりも天に笑ってもらえるよう、心がけてみましょう。
さそり座の今週のキーワード
捧げているからこその軽み