さそり座
大地への接吻
懺悔街道まっしぐら!
今週のさそり座は、『悪霊』のステバン氏のごとし。あるいは、徹底的なまでの救いようのなさに逆に救われていくような星回り。
大いなる大地の感覚から切り離され、底の浅い考えではしゃぎまわる者たちが、それこそ数えきれないほど登場するのがドフトエフスキーの『悪霊』ですが、その中でもひと際味わい深い人物に、小心者の自由主義者ステパン氏がいます。
彼は主人公でどこか『ちびまる子ちゃん』の花輪君を連想させる貴族の御曹司スタヴローキンの母親ワルワーラ夫人に寄生し、53歳にもなっていまだに家付き家庭教師として糊口を凌いでいる人物で、会話の端々にフランス語を交えるのが特徴。
そのどこか鼻につく言動で息子にも軽蔑されているのですが、20年来の寄生生活にみずからピリオドを打とうと、旅に出る覚悟を固めた旨をワルワーラ夫人に告げるものの、夫人はまったく取り合いません。その際の夫人の言葉を引用してみましょう。
わたしにわかっているのは一つだけ、これがみんな子供じみた空騒ぎだということですわ。あなたはどこへも行きやしませんよ、どんな商人のところへも。あなたはね、わたしから年金を受取って、火曜日にはあの得体の知れないお友だちを家に集めながら、結局はわたしの腕に抱かれて安らかに息を引き取ることになるんです。
この強すぎるマザーであるワルワーラ夫人を絶対的な光源として、並みいる男たちのみじめさや底の浅さをどこまでも描き切っていくことこそがこの小説の真骨頂なのです。
29日にさそり座から数えて「一つの終わり」を意味する4番目のみずがめ座の半ばに太陽が達して立春を迎えていく今週のあなたもまた、自身が照らされる側に回るにしろ照らす側を担うにせよ、人間の醜悪さと徹底的に切り結んでいくなかで、一度徹底的な救いのなさに沈んでみるといいでしょう。
存在としての新陳代謝
いくらコロナウイルスが5類へ引き下げられると言えども、まだまだ私たちはウイルスに目に見えないテロリストのごとき恐ろしいイメージを抱きがちですが、ウイルスそのものは人体を一方的に攻撃している訳ではありません。
そもそも人がウイルスに感染する際には、まずウイルス表面のたんぱく質が、人体の細胞側にある血圧の調整に関わるたんぱく質と強力に結合します。これは一見すると偶然のようにも思えますが、そもそも宿主とウイルスのあいだには惹かれあう友人ないし恋人関係があったのだとも解釈できます。
さらに、人体側の細胞膜にある宿主のたんぱく質分解酵素の方から、ウイルスたんぱく質に近づいていって、これを特別な位置で切断すると、その断面がするすると伸びて、ウイルスの内部の遺伝物質を人体の細胞内に注入するに至るのだそう。つまり、ウイルス感染というのは、宿主側がきわめて積極的にウイルスを招き入れた結果、起きている。人間に置き換えれば、ほとんど自業自得と言われてしまってもおかしくないんです。
これはどうもウイルスが生命発生の原初からいた存在ではなくて、もともと高等生物の遺伝子の一部として外部に飛び出したものだったという出自が大きく関係していて、つまり、ウイルスは長らく家出していたけれど、ついに帰ってきた私たちの一部なのだということになります。
それと同じような意味で、今週のさそり座もまた、ほとんど忘れていた自分の思いや感情、業や縁などを改めて引き受けていくことになっていくかも知れません。
さそり座の今週のキーワード
自分自身を迎え入れていく