さそり座
心残りと向きあう
どうしたって捨てきれないもの
今週のさそり座は、『杯(さかずき)にうつらぬ心年忘(としわすれ)』(星野高士)という句のごとし。あるいは、忘れようにも忘れきれない何かを見つめていくような星回り。
忘年会の一コマを描いてみせた一句。同僚に酒を注がれ、明るく語らうものの、気付くと杯の面をぼんやりと見つめている。心ここにあらずというやつだ。どうやら、座の盛り上がりとは裏腹に、作者のこころは愁いに沈んでいるらしい。
なるほど、確かにこういう「年忘」の句があってもいい。というか、その方が自然だろう。忘年会でたくさん飲んで笑って、その年にあった嫌なことはそれで忘れてしまおうというのは、いくら何でもあまりに虫が好すぎる。むしろ、場の雰囲気にのってあっさり忘れようとしてもそうできずにひとり取り残され、どうしたって引きずられてしまう心残りがあることが分かってしまう方が、よほど人間らしい。
どこか、中世時代に妻子も家も名誉財産もすべて捨てて、踊り念仏の全国行脚に明け暮れたことで「捨聖」とも呼ばれた一遍のことを思い出される。彼もまた「捨ててこそ見るべかりけれ世の中をすつるも捨てぬならひ有りとは(あらゆるものを捨てた気になって初めて、捨てきれないものがあることに気付く)」と歌に詠み、捨てたはずの妻子の帯同を受け入れた。
12月30日にさそり座から数えて「整理整頓」を意味する6番目のおひつじ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、捨てきれないものを明らかにするべく一つの区切りをつけてみるといいだろう。
日本の三年寝太郎
昔話を忘れがたいものにしている要素の1つとして、「例外性への憧れ」というものがあります。ふだんは食っちゃ寝を繰り返すだけの男が、何を思ったか不意に起き出しては皆には決して真似できない活躍をして、富と嫁さんをもらって幸せになる。悪い意味で普通ではなかった人が、良い意味で普通ではない結末を迎えるというパターンです。
どうしてそういうことになったのか、大抵の場合は本人もよく分かってない。というより、初めからよく分からない動機付けをよく分からないままに放っておくことができたからこそ、それが熟成発酵をへて結果に結びついたというだけなのだとも考えられます。
つまり、例外的なパターンを実現させ得たのは「放っておく力」に他ならず、それこそが例外性への憧れの実体に他ならない。逆に言えば、大抵の人はよく分からないままの動機を、そのまま放ってただじっとしていることなどできないのではないでしょうか。
その意味で、今週のさそり座は、自分の中に周囲とは異なる動機付けがあることに気付いたとき、あえてそれを放っておくといったことも大切にしていくべし。
さそり座の今週のキーワード
あえて放っておく