さそり座
たましいの古層
怪異に浸る
今週のさそり座は、怪物のまなざしとの同期。あるいは、隠蔽された怖れと改めて覗き込んでいこうとするような星回り。
マスクやワクチンなども含めて、近代社会というのは社会のあらゆる場所から怖れを隠蔽する技術を非常に発達させており、その結果、私たちは日常のどこを向いても均質な時間と空間の広がる、どこか“のっぺらぼう”な世界を生きています。
ところが、近代化以前の中世社会というのはその真逆で、夜が明けてから日が沈んで、夜に見る夢の中まで、近代人がなかなか共感できないような怖れに取り囲まれて暮らしていました。そしてそれは運命とか、死とか、天変地異とか、病気とか、戦争とか、さまざまな顔をしてこちらに向いており、中世の人々はそこで怖れと直接的にぶつからざるを得なかったのです。
例えばロマネスクからゴシックにいたる建築物にはさまざまな怪物たちが配置されていますが、あれらは本来そうした怖れそのものである世俗の要素を遠ざけるために設置されており、然るべき位置に置かれていなければならなかった訳ですが、今では三越のライオンもそうですが、逆に客寄せに使われてしまっていて、これも怖れの感覚が私たちの中ですっかり薄らいでしまったことの証しでもあるのではないでしょうか。
ただ一方で日本人の場合、床の間にあがってはいけないとか、敷居を踏んではいけないとか、中世的・古代的な空間についての意識が古層のところでかろうじて残っていますから、そういう意識とつながることで、世界のいきいきとした輪郭を取り戻していくことができるはず。
その意味で、7月7日にさそり座から数えて「無意識」を意味する12番目の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした中世的・古代的な意識の古層とおのずから繋がっていくようなところがありそうです。
闇と戯れる
岡崎京子の漫画『Blue Blue Blue』に、「匂いはいつもあやうい。ことばではない何か。何かが反応してしまう。匂い。夏の。夜の。アスファルトの。あなたの。匂い。」というセリフが出てきますが、これがもし明るい蛍光灯の下で吐かれたセリフだったなら、さぞかし拍子抜けしていただろうと思います。
まとっている闇が深ければ深いほど、その中で立ちのぼってくる感覚や印象は鮮烈になっていくもの。そういうことを、かつての日本人は当たり前に体感していましたし、上手に楽しんでもいました。
例えば集まって月の出を待つ「月待」や、怪談を語りあう「百物語」、野山に繰り出す蛍狩りや虫聴きなど、怖れの根源へと接近するさまざまな機会を持っていました。そこにはもちろん光もありましたが、あくまでそれを包む圧倒的な闇への感覚をむしろ際立たせるためのささやかな‟呼び水”だったのです。
今週のさそり座もまた、改めていろんな意味で理性の「灯り」をOFFにしていくことを心がけてみるといいでしょう。
さそり座の今週のキーワード
怖れを体感すること