さそり座
完璧さを切り崩す
トータルな体感の深まり
今週のさそり座は、「春星や湯屋から帰る修道女」(大津日出子)という句のごとし。あるいは、予想だにしなかった結びつきのなかに活路を見出していくような星回り。
春が近づいてくると、星の見え方もずいぶん変わってくる。冬星の鋭さはなりをひそめ、春の宵にはどこか潤んだような柔らかさを含んだ星がどこかぼんやりと浮かんでいる。
掲句ではそんな春星と修道女という、ふつうなら繋がりさえ思いつかないモチーフを取り合わせ、「湯屋から帰る」というシチュエーションで見事に繋ぎ、一連の立体映像のように読者の目前に立ち上がらせてくれます。
その秘訣は、「春星」と「修道女」がいずれもかなり視覚に偏ったイメージであるのに対し、湯屋帰りという状況設定が湯のあたたかさや肌のぬくもり、脱衣や着衣の際のきぬずれなど、触覚に訴えるものであること。
こうした、ある感覚をベースにしつつ別の五感を与えることで読者の五感を鮮やかに刺激する仕掛けを「共感覚転移」というのだそうですが、ひとりの人間が瞬間的に別人のように変わってしまうような時にもそういうことは起きているのかも知れません。
24日にさそり座から数えて「体感の深まり」を意味する2番目のいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、ひとつの感覚を深めることにこだわり過ぎるのではなく、異なる感覚への転移においてトータルな体感の深まりを追求していきたいところ。
偶然からもたらされるもの
トム・クルーズの主演の映画に「マイノリティ・リポート」という作品があります。舞台は2054年のワシントンDC。そこは犯罪を予知できるシステムのおかげで、殺人事件が存在しない平和な世界となっていました。
しかし、“完璧”な世界というものには必ず裏があるもの。不意に吹き込んできた偶然にさらされた主人公の取った行動によって、犯罪予知システムはその裏にある暗い事実が明らかとなり、最終的には解体されてしまいます。
同様に、今週のさそり座もまた、自分のもとに訪れた偶然の重なり合いを単なる気のせいや一過性の出来事としてスルーするのか、それとも、平穏無事に見える生活や関係性、仕事や健康などに対する恐れや疑念をブレイクスルーして、これまで見過ごしてきた真実を受け入れ、生活や生きる姿勢そのものを改めていくか、選択していくことになるでしょう。
一見して完璧に見えるものほど、危うさを秘めているのだということを、今週はよくよく意識してみてください。逆に、不完全で不格好に見えるものほど、掲句もそうだったように、繋がり方や関わり方次第であなたに新しい喜びをもたらしてくれるはずです。
さそり座の今週のキーワード
視覚的な調和や完璧さほど疑わしい