さそり座
意想外の真実
逆説的存在
今週のさそり座は、熊楠と猫楠の会話のごとし。あるいは、当たり前や常識で蓋をしていた自分の本音や実感に改めて気が付いていこうとするような星回り。
水木しげるの『猫楠』は、“幸福観察猫”である猫楠の視点から、日本を代表する民俗学者で粘菌研究者でもあった南方熊楠(みなかたくまぐす)の生涯を描いた作品であり、そこでは世の常識から隔絶した様々な議論が軽妙な会話形式で開陳されていきます。
熊楠「粘菌の世界をみても死んだとみえる状態に似ているときに粘菌は最も活躍してるんだ」
猫楠「すると人間は死んだと思われ無だと思われている時の方が本当に生きているのかもしれないナ 人間は死後なにもないと思うのは間違いだナ」
熊楠「案外 死んで無くなってしまったというときに意想外の誕生があって 我々が無上の価値だと思った“生”は実は”地獄”だったということもあるわけじゃョ」
粘菌(変形菌)は変形して移動するアメーバ状の変形体と、まったく動かない子実体という二つの異なる在り方をもち、植物界にも動物界にも属さない原生生物界に分類されています。
鶴見和子によれば、熊楠が粘菌に着目したのは、それが動植物の境界領域にある生物であり、生命の原初形態や遺伝、生死の現象などの手がかりがつかめるのではないかという動機付けがあったのだそうですが、つまり、粘菌は人間世界の常識をひっくり返した逆説を例示する存在だったという訳です。
5月4日にさそり座から数えて「そもそもの前提条件」を意味する4番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな熊楠よろしく、常識をひっくり返していくための具体的な手がかりを掴んでいくべし。
幻想こそ真実
フロイトは晩年期に書かれた『幻想の未来』において、「宗教的な観念とは、経験の集積や思考の最終結果ではなく、幻想であり、人類の抱いているもっとも古く、もっとも強く、もっとも差し迫った願望の現実だ」と述べており、ひとびとがさまざまな場面で他者へ投影したり夢のなかで具現化していく幻想は誤謬などではなく、むしろ切実な願いを芯に含んでいる大切なものであるとの考えを強調しています。
つまり、ここでは「宗教」の本質が、人間の無力さや罪深さをめぐる感情の中にではなく、そうした感情から救われようとする人々の願いにこそあるものと考えられている訳です。
そういう意味では「自分は現実的な人間だ」と考え、夢や幻想の意味や価値を否定する人ほど、フロイトの立場からすれば自己欺瞞的なのだと言えるかも知れません。
今週のさそり座もまた、自分が切実に願っているものは何なのかということに、少なからず光が当たっていくことになるはずです。
今週のキーワード
ホモ・レリギオス(宗教的動物)