さそり座
もう一人の私が遊ぶ
けものが一匹
今週のさそり座は、「霧月夜狐があそぶ光のみ」(橋本多佳子)という句のごとし。あるいは、内なる狂気が身の内から脱け出して躍動していくような星回り。
霧が立ち込めた月夜の晩の、ほのかに明るい、夢のなかの世界のような月光。その中で、光を集めてあそんでいる狐の、にぶいかがやき――そんな書画に描かれたような世界を連想させる一句。
この「狐」がどこか雌狐のように見えるのは、やはり作者が女性だからではないでしょうか。というより、作者の句風としてどこか女としての心の打ちだし方を込めるところがあって、霧のなかで濡れて光って動いている狐というけものの姿に他ならぬ自分自身を見出したのではないか、と考えるのが自然なように思われます。
それは、作者にとって道徳や理知では抑えきれないものであり、かといって「母性」や「可愛らしさ」など、社会に用意された類型にも到底おさめきれないものでもあり、時に人知れず悶えているという仕方でしか自覚できなかった何かなのかも知れません。
そうであるからこそ、掲句はどこか単なる表現上の遊びを超えたなまなましさを感じさせるのでしょう。
17日にさそり座から数えて「秘密」を意味する12番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、本来の自分らしい姿に戻っていくための時間と場所を確保していきたいところです。
もう一人の<私>としての「ムーンリバー」
ときどき、この世界の現実は何もかもが夢なんじゃないか、そんなふうに思えてくることはないでしょうか。
けれど、そんな時に見上げた夜空に浮かぶ月を見ていると、そのあまりの生々しさに心打たれて、これだけは間違いなくリアルなんじゃないかと思えてくる。他の何もかもが信じられなくても、これだけは信じてもいいのかも知れないと。
「ムーンリバー」を作詞したジョニー・マーサーも、おそらくそんな感覚を思い浮かべながら歌詞を書いたのではないかと思います。曲の出だしを抜粋すると、
Moon river,wider than a mile(ムーン・リバー、この広く果てしない川よ)
I’m crossing you in style some day(いつの日か、あなたを颯爽と渡ってみせる)
Oh,dream maker ,you heart breaker(ああ夢を見させもすれば、心を砕きもする)
Whereever you’re going I’m going your way(あなたが行くところならどこへでも、私はついて行く)
ここには世の中の基準や、頭で意味づけられる以前のナマの世界に生きているもう一人の<私>として「ムーン・リバー」が登場してきているように思えます。
今週のさそり座も自分にとってのムーン・リバーと静かに、しかし力強く向き合っていけるかどうかが問われていくでしょう。
今週のキーワード
アナザー・ワールドとしての月