さそり座
うごめいてこそ
必要な不幸
今週のさそり座は、「さくら餅他所のめしひに夫(つま)やさし」(玉木愛子)という句のごとし。すなわち、動きはじめた感情に春の訪れを感じていくような星回り。
作者は5歳でハンセン病となり、三十歳で入院し右足切断、のち失明するも、キリスト教への信仰と俳句、そして同じ病と闘う夫を支えに生きた人。
「他所(よそ)のめしひ」とは、同じ病運に入院していたハンセン病患者のことであり、「さくら餅」の匂いをまとって自室へ帰ってきた夫が誰か他の女性にやさしくしたことに、ひそかな嫉妬心を抱いてそれを詠んでいるのである。
春の到来を告げる和菓子の匂いはさまざまなことを想像させるが、あるいは夫から直接そういう話を聞いたのかも知れないし、夫のよくある行動だったのか、それとも一回きりの気まぐれを女房の直感で見抜いたのか。
ほの明るい盲人の視界のなかに、いつもわたしにやさしい夫の顔と、他人にも同じ顔でやさしくしている光景が瞬時に交錯しては、心が乱れる。これは自分のなかに隠れていた感情の発見の瞬間であり、究極の愛の句でもあるのではないか。
3月3日にさそり座から数えて「絆」を意味する8番目のサインであるふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、精神的なつながりやそれを求める自身のなまなましい欲求へと自然と目が向いていくはず。
自分の性(さが)を受け入れる
愛の極限は、相手を殺めてしまうほどの激しさにある。そんな美意識を思い起こさせるのは、しかし当人にとっては「殺し」が実際には行われなかった時だろう。
胸に秘していてこそ、そうした激しさはギリギリのところで愛へと繋がっていきますが、いったん言葉に出してしまったならば、その激しさは実のところピークを過ぎて収まりつつあるはず。
そこではもう心は相手を「あやめる」ことへは向かわず、そこまで相手の存在の大きさを思わずにはいられなかった自分自身を醒めた目で受け入れていく方へと傾いていく。
今週のあなたもまた、掲句の作者のように自身の激しい胸の内を言葉にしていくことで、自分の性(さが)を静かに受け入れていくことがテーマとなっているのかも知れない。
今週のキーワード
極限と反動