さそり座
殻を破る試み
自由な海を泳ぐために
今週のさそり座は、デレク・ウォルコットの「帆船"逃避号”」のごとし。あるいは、過去につけられた名前を、めくるめく流転と変容の波のなかに投げ捨てていくような星回り。
カリブ海諸国出身者として初めてノーベル文学賞を受賞した詩人ウォルコットは、「歴史」によって名前を奪われた群島の子供として、みずからの名前をカリブ海の波間に放擲しようという衝動をしばしば詩行に滲ませてきました。
「僕は海を愛する銅色のニガーにすぎん
健全な植民地教育を受けた人間
オランダ ニガー おまけにイングリッシュの血が入っている
僕はノーボディか さもなけりゃ一人で国家(ネイション)だ」
(「帆船"逃避号”」)
彼はここで、初めは侮蔑語としての「ニガー」を逆説とともに引き受けたのち、みずからの家系に混入しているオランダ人やイギリス人の血を受けれつつも、ついには「ノーバディnobody」すなわち誰でもない無名性の自己認識に行き着きます。
そして、そこから一気に「国家nation」という抽象的な怪物の名前へと変幻する、大胆なアクロバットを決めてみせています。
被支配のあらゆる切断と略奪の中を生き抜いた混血の群島人の子孫である彼は、ここで再び先祖が強制的に渡らされてきた海を、今度は自由に渡っていくための新しいことばの遊泳力を試そうとしていたのかもしれません。
そして6日(金)にさそり座から数えて「自分の真価」を意味する2番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、過去の幻影にあなたを縛りつけるあらゆる拘束を脱ぎ捨てるべく、殻を破るための試みをしていくことがテーマとなっていくでしょう。
無防備ゆえに最強
狂気と復活の神であるディオニュソスは、死への衝動を含み込んだ生きる意志のシンボルとして、周囲を凄まじく巻き込む強烈な霊威で知られてきました。
そのパワーの秘密は、四股や衣服にとどまらず皮膚さえも剥ぎ取られながらも存在し続け、生きる意志を失わない「トルソー的身体」にありました。
ボードレールの「バッカスの杖」という詩には、「曲線と螺旋とが沈黙の愛情を注ぎながら直線に言い寄り、その廻りで踊りを踊っている」というの一節が出てきますが、この酒の神バッカスこそギリシャ神話におけるディオニュソスに他なりませんでした。
そして、そのディオニュソスを祀る秘祭で用いられる蔓を巻いた松明(テュルソス)こそ、頭や手足のない胴体だけの彫像(「トルソー」)の語源でもあった訳です。
今週のあなたもまた、一切の虚飾やポーズをそぎ落としていくことで、自身の奥底に眠っている力をこれでもかと引き出していきたいところです。
今週のキーワード
ただ「蔓を巻いた松明」であれ