さそり座
影と愛
忘れていた価値
今週のさそり座は、「黴の書に占魚不換酒の印存す」(上村占魚)という句のごとし。あるいは、自分がこよなく愛しているものとの繋がりを、改めて確認していくような星回り。
「占魚不換酒」というのは作者の蔵書印。読み下せば、「占魚酒ニ換エズ」。おそらく作者は深く酒を愛していて、代金の工面に困るとしばしば古書店に書物を売ってしまっては、正気に戻った後に深く後悔していたに違いない。
つまり、彼は書物もまた深く愛していた訳だ。この蔵書印は、もう二度と手放すまい、自分は後悔なんかしたくないのだ、という決意表明でしょう。
黴など生やして、きっと手垢で汚れた見た目のよくない本なのではないか。ただ、それでも作者にとっては、節目ごとに繰り返し読み、人生を共にしてきた大切な一冊なのであり、他の何ものにも代えがたい財産なのです。
さそり座から数えて「財産」や「自己価値」を意味する2番目のいて座で満月が起きていく今週は、さながら作者の蔵書印のような結びつきの確認をしていくような動きが出てくるでしょう。
作用と反作用
1つの文字や一行の文章にも影があるように、どんな人生にも歩んできた道のりの分だけ影があるものです。
それは人によって長い長い「言いわけ」であったり、逆に何かを言わないできた「沈黙」であったりとさまざまですが、いずれにせよそうした人生の「影」は放っておけばいつしか所有者を蝕むようになり、ついには影の方が主人となる立場逆転の危機を迎えることになります。
あるいは、放っておいてはいけない影に執着し、愛着を覚えるようになる。それもまた人間の姿なのでしょう。その意味では、掲句の「黴」というのもあるいはそうした「影」の隠喩なのかもしれません。
最近、忙しくて内を見つめる時間がなかったという人は特に気を付けて。その忙しさは、内にある影から逃げ出すために自分でこしらえたものでもあるのですから。
今週のキーワード
自分との約束