さそり座
本音の跋扈跳梁
「悪」の感覚
今週のさそり座は、古代中国で行われた「蟲毒」という呪術のごとし。あるいは、道徳的な建て前を、感覚的な本音が裏切っていくような星回り。
「蟲毒(こどく)」というのは、器の中に毒を持った虫を入れていき、共食いさせてそこで生き残ることでさらに強まった虫の毒気を利用して敵を呪うことを言ったのだそう。
同様に、私たち人間の中にも、そうした毒虫のごとき悪や暴力への欲望は眠っています。
上弦の月を形成する太陽と月を含んだ惑星群が「柔軟宮」と呼ばれる変化を司る4星座すべてに入っていく今週は、さそり座の人たちにとって、日ごろ抑えこんでいるような暗い欲求をいかに浄化させられるかが問われていくはず。
これは例えば、江戸時代の歌舞伎や人形浄瑠璃の演目などに、しばしば極限状況を生きる悪人たちが放逸するサスペンスだったり、血しぶきや生首の飛ぶ凄惨なシチュエーション、苦悶と恋愛とが交錯するような濃厚な官能性のなかで彩られていく「悪」の形象が登場し、庶民たちの抑圧された欲求のはけ口となって人気を博していたような文脈とも相通じていくように思います。
つまり、道徳倫理的には「悪」は否定される訳ですが、舞台で繰り広げられる「悪」の行為には生理的・感覚的なところで蠱惑的な引力をもって引き込まれ、肯定されていく、一種の浄化作用的代行がそこで起きていく、ということ。
今週はそうした自分を奥深いところで惑わしていくようなものや人に、きちんと身を委ねていくことを大切にしていきたいところです。
爆ぜる
例えば、松尾芭蕉、与謝蕪村と並んで江戸時代の三大俳人として知られる小林一茶。彼について描いた藤沢周平の『一茶』には次のような描写が出てくる。
「言いたいことが、胸の中にふくらんできて堪えられなくなったと感じたのが、二、三年前だった。江戸の隅に、日日の糧に困らないほどの暮らしを立てたいという小さなのぞみのために、一茶は長い間、言いたいこともじっと胸にしまい、まわりに気を遣い、頭をさげて過ごしてきたのだ。その辛抱が、胸の中にしまっておけないほどにたまっていた。
だが、もういいだろうと一茶は不意に思ったのだ。四十を過ぎたときである。のぞみが近づいてきたわけではなかった。若いころ、少し辛抱すればじきに手に入りそうに思えたそれは、むしろかたくなに遠ざかりつつあった。それならば言わせてもらってもいいだろう、何十年も我慢してきたのだ、と一茶は思ったのである。」
この時、一茶の心の中で大きく何かが爆ぜたのでしょう。そしてこれもまた、建て前を本音が裏切るということの一つのバリエーションに他なりません。
今週のあなたもまた、そうした秘めた炎を暴発させていく機会を得ていくかもしれません。心してください。
今週のキーワード
濃厚な官能性