さそり座
自分を糠に漬ける
じんわりと培われていく
今週のさそり座は、「サングラス取り糠床へ膝まづく」(西山ゆりこ)という句のごとし。あるいは、「温故知新」に全力を傾注していくような星回り。
昔は世間話の中で「あらこの漬け物おいしいわね」なんて言葉が誰かの口から出ると、糠床ごとお裾分けが行われていたなんて話を聞いたことがありますが、「サングラス取り」「膝まづく」だなんて言われると、おいおいそこまで有難がるなんて、どっかのカルトか何かかよ、と思わず身構えてしまうかもしれませんね。
しかし、その対象が「糠床」であるというところが掲句の面白さであり、野菜を入れると乳酸菌たちが発酵をとおして滋味あふれる漬け物を返してくれるという意味では、糠床というのは一種の培養器であり、ほとんど土地に代わるくらいの不思議な力を秘めている訳です。
先の表現も、そうした命の働きの不思議さに対する素直な反応の現われであるように思いますが、考えてみたら「糠床」なんてわざわざ自宅で仕込んでいるのはもはや少数派であるはずで、現代っ子は逆に目新しさと同時にやはりそこに何とも言えない重さを感じてしまうのでしょう。
3日(月)にさそり座から数えて「過去の遺産」や「受け継いでいくもの」を意味する8番目のふたご座で新月を迎えていく今週は、そんな「糠床」のごときグラウンド(地)へ改めて自分の知識や考えを漬け込んでいきたいところです。
「ビーイング&ビカミング」としての糠床
ユング心理学者の河合隼雄さんは「日本社会というのは心理的には中空構造なんだ」ということを本に書いていました。
しかしこの「中空」というのはつかまえにくい概念で、何にもない「ナッシング」や「ボイド」かと思えば、社会と繋がって現に存在している以上「ビーイング」であり、それだけでなく、そこから何がしかが有意義なものが生まれてきたり、湧いてきたりする「ビカミング」でもある、と。
つまり、社会の中でオリジナルを追求して遡っていこうとしても、確固としたメッセージとか、唯一のテキストだとか、そういう実体的なエビデンスに突き当たらない。
どこかで必ず、お湯につかったようにふやけちゃうという訳なんですが、ある意味で「糠床」というのはまさにこの「中空」そのものなのではないか、とも思うのです。
その意味では、今週はあらためて自分自身を潜在的な可能性の海に浸していくことで、即座に直接的に正解へと向かっていくのではなく、「成り行き」に任せる方式で、自分を神話的に建国しなおしていこうとしているのかもしれません。
今は、どうかそうしたプロセス自体を楽しんでみてください。
今週のキーワード
スローフード