さそり座
未練とゆらぎ
一切の未練を置き換える
今週のさそり座は「をとゝひの糸瓜の水も取らざりき」(正岡子規)という句のごとし。あるいは、未練と呼ぶべき未練を、淡く深く断ち切っていくような星回り。
掲句は作者の死の前日に作られた、よく知られた絶筆のうちの一句。「糸瓜(へちま)」の茎からとられた水は痰を切る効果があるとされ、作者の家の軒先には糸瓜棚がしつらえてありました。
糸瓜の水を一昨日も取っていない。
作者は脊椎(せきつい)カリエスという骨の慢性炎症で34歳の若さで亡くなったのですが、その短い一生にだってさまざまな未練があったはずなのに、それら一切を糸瓜の水を取らなかったことに置き換えて、彼は死んでいった訳です。
作者はこの一句を画板に貼った紙に筆で書きつけたそうですが、そのタッチはさっと走らせただけのように淡かったそうです。これがもし濃かったという話だったら、気が重くなっていたところでした。
きっと彼の実体は、もはやそこにほとんど残っていなかったのでしょう。
大いなる年の終わりを迎えていく今週のあなたもまた、次の生に向けてこれまで握りしめていた未練をそっと手放していくことになりそうです。
芽生えのプロセス
人であれ、作品であれ、なんであれ、最愛の「未練」というものは、いつかは核分裂して自分の元から離れていく宿命にあるのだと思います。
生命の本質は「ゆらぎ」にあり、完璧な調和というのは長くは続かず、時の経過とともにどちらかが必ずズレていく。
これが「芽生え」の決定的なプロセスであり、種子から芽が生え土壌をつらぬき光のともとへと達したとき、この世界へと向いた生命のダイナミックな展開が始まっていくのです。
それは言い換えれば、これまであなたが私的に所有していたなにものかがようやく解き放たれ、公に日の目を見ていくことになる転換点なのだとも言えます。
今週はそのすべての責任を取るつもりで(ただし手は出さず)、しっかり経過を見守っていきましょう。
今週のキーワード
命は留まることなし