さそり座
新しい理想と私の再生
ささやかな儀式
今週のさそり座は、「梨を剥く一日すずしく生きむため」(小倉涌史)という句のごとし。あるいは、暑苦しくなりがちな日常に、精神的な涼しさを呼び込んでいくような星回り。
「一日」は「ひとひ」と読ませる。
梨の季節は夏の終わりから秋にかけてなので、すこし気は早いですが、暑くなりそうな日の朝、すずしげな香りと味の梨を剥く作者のありようは、どこか今週のさそり座の人たちにとってよき指針となっていくでしょう。
剥きながら作者が願っているのは、体感的な涼しさだけでありません。精神的にも涼しい1日を過ごしていけるようにと念じつつ、ちっぽけな梨一個に全神経を集中させている。
そう言ううと大げさに聞こえるかもしれませんが、残暑が残る蒸し暑い1日を心涼しく生きられたなら、それは大変な幸せなのではないかと思うのです。
逆に言えば、梨を剥くというちっぽけな営みひとつでも、深く集中して取り組んでいくことができれば、私たちの心は救われることがあるのだとも言えます。
今週はどこか心を研ぎ澄ませていけるような、自分なりの<ささやかな儀式>を見出していければいいのですが。
<私>を再構築する
批評家の安藤礼二は、江戸川乱歩は作品を書くことによって「女」になろうとしていたし、そのために「私」を徹底的に分断して、自らの想像力のみを駆使してまったく新しい理想の「女」として再構築していったのではないか、と指摘しています。いわく、
「女になること。その場合の女とは、肉体的な現実をもった女ではない。乱歩の「女」とは、生物学的な「差異」でも、制度的な「差異」でもない。逆にその「女」はさまざまな「差異」を生み出す地平、絶対的な「官能性」とでも名づけるほかない領域に存在する。それは森羅万象のすべてを官能として受容する純粋な感覚世界の新たな想像であり、その感覚の全面的な解放である。」(安藤礼二、「鏡を通り抜けて 江戸川乱歩『陰獣』論」)
これほど徹底的に実行できるかはさておき、今週のさそり座の星回りにもまた、「私」を再構築することへの鬼気迫る情熱のようなものを感じてなりません。
自分が救われるために、自分は一体何を望んでいるのか。その夢想の根底へと1歩ずつ、しかし着実に歩を進めていくことです。
今週のキーワード
鬼気迫る