さそり座
得体の知れない自分を仰ぐ
未来への脱皮
今週のさそり座は、「水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首」(阿波野青畝)という句のごとし。あるいは、波のごとく全身をくねらせて、堂々たる未来へ向けて脱皮していくような星回り。
水面、伽藍(がらん)、と出来事の主体を伏せて優雅な景色を描いておいてから、最後に蛇とくる意外性の演出。たとえ同じ光景を見たとしても、それを掲句のような表現に落としこめる者はまずいないだろう。
それほど見事に美しい句だ。むろん演出も小賢しい計算によってもたらされたものではない。
塚本邦雄が評釈で、
「衣を脱いだばかりのみづみづしい蛇はうつつから夢の境へと身をくねらせて渉り過ぎる。首を王朝に向けて、彼岸にわたりつけば水干姿の青年に、あるいは小袿の袖濡れた橋姫に変るやも知れぬ」
と書いていたのもうなづける。
蛇は「変身/再生」の象徴であり、ここでは平等院本堂という王朝の残影のごとき夢の本丸へとまっすぐに向かっている。一見時代錯誤の古臭い句のようにも思えるが、それはミーハーな懐古趣味からくるものではなく、滔滔とみずからの理想を追いかけてゆく作者の孤絶からくるものと捉える方が近いだろう。
今週はまさにみづみづしい蛇のように、自らの夢見た理想へ泳いで渡って移り変わっていくことでしょう。
天を仰ぐ
「天は自ら助くる者を助く(Heaven helps those who help themselves.)」
という英語のことわざがありますが、漫画『バカボンド』にも似た言葉として、無謀にもひとりで柳生の城に挑んでいく際に、
「(人は笑おうと)天は笑いはしない」
というセリフが出てきます。
この場合の「天」とは、「自分の中の何か得体の知れないもの」と言ってしまってもいいかもしれません。その意味で、「天を仰ぐ」のと対極的なのは、例えば友だちの反応や、世間がどう思うかどうかで決断を成そうとする態度でしょう。
そういう時というのは大抵が無意識のうちに、自分はきっと不幸なはず、幸福にはなれない、というイメージを浮かべてしまっているものです。
今週のあなたのテーマは「自分の中の得体の知れないもの」としての天を大きく広げ、そこに向かって身を投げ込んでいくこと。逆に言えば、そんな態度を妨げる不要な思い込みを排していく必要を痛感していくでしょう。
今週のキーワード
みづみづしい蛇