いて座
運命の交錯
生成と消滅
今週のいて座は、「いつまでも捕手号泣す蜥蜴消え」(今井聖)という句のごとし。あるいは、自分の運命と同期しているような何かと魂で触れ合っていくような星回り。
試合に敗れたチームの捕手が、ベンチの脇の草むらに突っ伏していつまでも泣いている。彼の夏が終わってしまったのだろう。高校野球では時おり目にする光景だ。掲句では、さらにそこに「蜥蜴消え」という一語を暗示的に入れている。
なぜ「蜥蜴」なのだろうか。投球練習場のそばには大抵草むらがあり、チームの中で最もその近くにいる時間が長いのは当然捕手である。草むらを這う蜥蜴は、もしかしたら捕手にとって日頃から顔なじみの存在であり、練習場の相棒だったのかもしれない。
しかし試合に負けてしまえば、この夏にはもう「蜥蜴」を見ることもなくなってしまった。その意味で、まさに蜥蜴は捕手とその命運を同期していたのだ。
今週はそんな予兆めいたつながりで結ばれている誰かとの縁を、何かを喪う代わりに得ていくことができるのかもしれません。
交流の味わい
ひとりの人の後ろには、いろいろな人の運命が交差していて、しかし、やっぱり他人ですから、関わっている相手がどんな人間なのか、どんな運命なのかはつかみ切れないまま、うすぼんやりとしています。
そのことを真面目に考えすぎると、気味が悪くなってくるかもしれませんが、そもそも他人なのですから、理解できてなくて当然なのだとも言えます。
ひとりの人間が自分の運命について語りだせば、その親や祖父祖母、兄弟姉妹、友人、恋人、同僚、上司、顔も知り程度の知り合いなどが、さまざまにその人の像を浮かべ始めます。
この世に生きているということの醍醐味は、そうやって生きた交流を通して、互いの運命を明確にしていくことにあるのだとも言えます。
今週は、冷静に淡々と、ユーモアとシリアスのあいだに立って、そういう生の醍醐味を味わい、寄り添っていく時でもあるのだと思います。
今週のキーワード
袖振り合うも他生の縁