
いて座
沈黙と言葉の間で

冬を駆逐する嵐となる
今週のいて座は、『春隣る嵐ひそめり杣の炉火』(飯田蛇笏)という句のごとし。あるいは、ここしばらく溜めてきた力を一気に解放する機会をうかがっていくような星回り。
「杣(そま)」とは山仕事をする人、ないし木こりのこと。もう春もすぐそこまで来ている頃になって、木こりの炉の火には嵐がひそみ隠れている心持ちがするというのです。
作者は郷里である山深い甲斐の地に定住しつつ、俳句を詠み続けた人でしたから、ここで尽きかけている冬というのも、ただの冬ではなく、外界へ通じる道がすべて雪で閉ざされ、身動きができないまま緩慢な死を待つばかりの深い沈黙が支配しているかのような冬なのでしょう。
そんな圧倒的な自然の脅威がやっとゆるまって、生への希望の光が再びともりはじめる感覚を、あたかも炉の中にひとつの春という猛烈な力が潜んでおって、それが表面に出てくる機を今か今かと待ちながらぐーっと息を殺しているような感じがすると表現でしているわけです。
掲句のなかでもとりわけ目を引くのは「嵐」の1文字でしょう。すなわち、春をもたらす力のイメージを、ギリシャ神話に登場するニンフ(精霊)のような、美しく優雅な女神としてではなく、咆哮を上げて叫ぶとされるインドの暴風神ルドラのごとき荒々しい存在として思い描いているのです。
とはいえ、ルドラもまた弓矢によって敵を打ち滅ぼす恐ろしい阿修羅のような側面をもつ一方で、人々に豊穣と安寧をもたらす恵み深い神でもありました。
同様に、2月21日に自分自身の星座であるいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、来るべき新たな季節に備えて、自身の内に潜む力をぐーっと凝集していくつもりで過ごしていくべし。
一つの噴泉としての沈黙
現代ほど人がたくさんの情報量を浴びながら生活している時代はかつてありませんが、同時に現代ほど言葉ひとつひとつの力が失われ、何かを伝えたり口にしたりすることの意味が陳腐化してしまった状況もないのではないでしょうか。
逆に、古代の言葉というのは、つねにその中心にはひとつの大きな沈黙があって、いかにそこから放射状にさまざまな言葉が形づくられようとも、繰り返しこの沈黙という中心に帰っては、あらためてこの中心から始まるようにできていました。しかもそうした傾向は、沈黙とはほど遠いものと思われがちな求愛や憤激の言葉であれば尚更強まったのです。
例えば、マックス・ピカートの『沈黙の世界』には、古代ギリシャのヘロンの言葉として次のような一節が引用されています。
偉大なる文体においては、通常、沈黙がかなりの空間を占めている。たとえば、タチトゥスの文章のなかには沈黙が支配している。卑俗な怒りは爆発的であり、低級な怒りは饒舌である。しかし、いわば正義を未来に期待して、もろもろの事柄に言葉を委ねるために沈黙することを欲する一種の憤激がある。
今週のいて座もまた、あえて沈黙を欲することで、その沈黙の深みからやっと歩みでたばかりの最初の言葉の力強さを改めて獲得していきたいところです。
いて座の今週のキーワード
求愛や憤激の言葉





