いて座
迷宮巡礼
沈黙の象徴としての迷宮
今週のいて座は、迷宮をまとった若い貴族のごとし。あるいは、めくるめく沈黙の深みにをみずからに沈めていこうとするような星回り。
16世紀イタリアの画家バルトロメオ・ヴェネト作のある若い貴族の肖像画は、モデルとなった人物が誰なのかは不明ですが、衣服の胸のあたりに迷宮がデザインされていて、人物が手でそれをなぞっているところを描いた絵になっています。
迷宮は当時のルネサンス人たちにとってこの世の生そのものを表すと同時に、脳のアナロジーでもありましたが、ある人物がそれをまとっている場合、それは守るべき沈黙が存在していることを示す象徴形態であることを意味していました。
例えば、この頃に作られた貴婦人用の宝石箱などにも迷宮とその中心に住まう怪物ミノタウロスが描かれていましたが、そこでは愛の秘密については堅く口を閉ざすことが要求されていた訳です。また、政治的な秘密や軍事計画のような迷宮と同じくらい複雑に入り組み、かつ秘密裏に遂行されるべきことにも、やはり迷宮のデザインが施されていたのです。
肖像画の若い貴族の場合、衣服に迷宮の他にもソロモンの結び目模様(=永遠)や剣(=知性)、迷宮の入口に付された小さな松かさ模様(=精神の火)などさまざまな象徴がこれでもかとちりばめられていることから、ある秘密結社の構成員だったのではないかという説もあり、いずれにせよ本当に大切な知識や秘密をその胸のうちに封印していることを、彼はみずから証明してみせようとしたのかも知れません。
同様に、6月21日にいて座から数えて「守るべき絆」を意味する8番目のかに座に太陽が入っていく(夏至)今週のあなたもまた、そうした数百年前の異国の貴族のごとき決意と行動へと、いかに近づいていくことができるかが問われていくはず。
業病と自由
なぜそんなものを抱え込んでしまったのか人に上手く説明できず、自分でもいまだ納得できないような厄介なものを、「業病」と言い表すことがあります。
たとえば聖母マリアにとっては<聖母>という役目や名称もまた業病のようなものだったのかも知れません。実際、それは逃れようとしても逃れられない宿命のようなもので、治す治療法も薬もなく、それをそれとして受け入れ、なんとか付き合っていくしかありません。ただそれはそれとして、しばし別のことに没頭したり、背を向ける自由もまた与えられているのが人間のはず。
キリスト教では、聖母マリアを性的に見ることはタブーであり、絵の場合、一般的には乳房は衣に包まれていなければならないとされていましたが、16世紀には「授乳のマリア」という題材がよく描かれていたようで、すなわちマリアが性的であるということもまた、そうした自由な人間を生きることの表現に他ならなかったのだとも言えます。そしておそらく、冒頭の胸に迷宮を宿した若い貴族もまた、それに近い状況を生きたのではないでしょうか。
今週のいて座もまた、そんな業病と人間的自由のはざまで、少なからず自分なりの沈黙を生きていくことになるでしょう。
いて座の今週のキーワード
迷宮をまとう