いて座
蝸牛に化ける
のたり、むくり
今週のいて座は、『蝸牛の頭もたげしにも似たり』(正岡子規)という句のごとし。あるいは、シビアな現実認識に洒脱なユーモアを織り交ぜていこうとするような星回り。
掲句には前書きに「小照自題」とつけてあります。「小照」とは小さな肖像写真のことで、実はかねてより自分の映った写真を欲する熱心な弟子に頼まれて、即興で書きつけた俳句でした。
当時作者はすでに結核が脊椎をむしばんでカリエスとなり、ほとんど寝たきりとなっていたはずですが、その日は薬の効きがよく、本人の気分もよかったのでしょう。介助してくれている母を交えて弟子と歓談している途中、半身横向きになって写真に映っている自分をしばらく見てから、その裏に掲句を走り書きしたのです。
まず「蝸牛(かたつむり)」を「ででむし」と読ませることで、リズムを作り出しています。もちろん、布団から上半身を起こすのがやっとの自分を情けないと自嘲したくなる気持ちもそこにはあったでしょう。しかし、そんな自分をかたつむりが頭をもたげてつのを出している姿に重ねて、ほのぼのとしたユーモアを醸すことで、そんな自分さえも受け入れてしまおうとしていたのかも知れません。これは作者が亡くなるほんの2カ月前のことでした。
5月26日にいて座から数えて「他人事」を意味する7番目のふたご座に拡大と発展の木星が約12年ぶりに回帰するところから始まった今週のあなたもまた、できるだけ作者のような軽妙な「俳諧味」をもって自身のことを客観視していくといいでしょう。
イェイツの仕事の流儀
自分自身のことをかたつむりに重ねたことで思い出されるもう一人の人物に、W.B.イェイツがいます。やはりアイルランドの伝統文芸復興の担い手で、ノーベル文学賞受賞作家でもあったイェイツは、2つの意味で規則的に仕事をすることを大切にしていたと言います。
ひとつは、集中力がなくなってしまうから。いわく、「少しでも変わったことがあると、私の決して堅固とはいえない仕事の習慣はくずれてしまう」と。そして、2つ目の理由が彼がかたつむりのように物凄くゆっくりとしたペースでしか仕事ができなかったから。
彼の書いた手紙によると、「私は書くのがとても遅い。満足のいくものは、一日にせいぜい五、六行で、それ以上書けたためしがないし、八十行以上の叙情詩を書くのは数カ月かかってしまう」そうですが、詩以外の収入を得るために書いている批評文などに関してはその限りではなかったようで、「人は生きるためにおのれの一部を悪魔に与えなければならない(中略)私は批評文を与える」とまで書いています(『天才たちの日課―クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々―』)。
イェイツが仕事の仕方において優れていたのは、まさにこの区別にあり、これと決めた核心的な仕事だけに自分なりの流儀を厳しく適用していった訳です。今週のいて座もまた、すべてのことを器用にこなすのでなく、ゆっくりと自分のリズムでこなすべき対象や仕事をじっくりと選び抜いていくべし。
いて座の今週のキーワード
ででむしモード