いて座
雲と顕微鏡
潜在空間にダイヴする
今週のいて座は、顕微鏡が熊楠にもたらしたビジョンのごとし。あるいは、みずからもまた「流動」していく世界の一部となっていこうとするような星回り。
宗教学者の中沢新一が長年研究してきた明治が生んだ稀代の博物学者・南方熊楠(みなかたくまぐす)についての講演をまとめた『熊楠の星の時間』を読んでいると、熊楠という破格のスケールの人物の持ち得た思想や活動を追いかけていくことで、中沢がそこに「東洋人の思想の原型」を見出そうとしていたことが伝わってきます。例えば、「南方マンダラ」と命名した熊楠流の学問の方法論について、次のように記しています。
事物には「潜在性の状態」と「現実化した状態」との二つの様態があって、現実化している事実もじつは潜在性の状態にある事実を介して、お互いにつながりあっています。そのため現実化した事実だけを集めて因果関係を示してみせたとしても、それは不完全な世界理解しかもたらさない、というのが熊楠の考えでした。
これは粘菌や華厳経など、熊楠が学問をしていく上で関わったものに関係しているだけでなく、今日のエコロジー思想を先取りしていた神社合祀反対運動についての考え、そして彼がその身をもって生きたセクソロジー、男色、ふたなりなども含めての言及でしょう。
事物や記号はいったん潜在空間にダイビングしていく見えない回路を介して、お互い関連しあっています。そして潜在空間ではあらゆるものが自由な結合をおこなう可能性を持って流動しています。
そう、この「流動」をダイナミックに展開されていく姿こそが、熊楠が顕微鏡の粘菌を通して見出していったいきいきとしたビジョンであり、新自由主義的な思考に慣れきってしまった現代人が見失いつつあるこの世界の実相なのではないでしょうか。
3月25日にいて座から数えて「ビジョン」を意味する11番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、これまでの自分の仕事や活動を支えてきた世界観を別の方向へとシフトさせていく上で、改めて自分なりの世界観に“オルタナティブ”な展開をもたらしてくれるものを貪欲に模索してみるといいでしょう。
視点の高度をあげる
とはいえ、顕微鏡なんて持ってない人がほとんどなはず。そんな場合は、たとえ外で雨が降っていようが、いまこれを読んでいるのがコンクリートに囲まれたマンションの一室だろうが、一日のうち必ず一度はとにかく外へ出て30秒でもいいので空を見上げてみることをお勧めします。というのも、狭い視野に閉塞している限り決してビジョンは広がっていかないから。
雲は知っていない、
なぜ、この方向に
このスピードで動いていくのかを
知らない。
しかし、空はすべての雲の秩序を把握している。
君達にもそのことがわかるだろう。
地平線の向こう側が見える程の
高みに立った時には。
(リチャード・バック、『イリュージョン』)
空を見上げながら、ゆったりとした気分で心の中から「雲」を見つめてみる。「雲」は現実と潜在のはざまにあり、それは「潜在空間における自由な結合」によっていかようにも形を変えていくのだと、想像してみるといいでしょう。
今週のいて座もまた、うまくいけば空に浮かぶ雲から、これまで聞いたことのない言葉や声を感じとっていくことができるはず。
いて座の今週のキーワード
ベタからメタを引き剝がす