いて座
わが小なる活動
みずからの根底にあるもの
今週のいて座は、岡倉天心が説いた茶の本質のごとし。あるいは、みずからの内に「偉大なるものの小」を見出していこうとするような星回り。
岡倉天心によって1906年に英語で発表された『茶の本』は、単なる趣味としての茶道の入門書としてではなく、日本に関する独自の文明論でありその象徴としての「茶」を西洋人に理解させるために書かれたものでした。
いわく、茶道は「『不完全なもの』を崇拝する」ことであり、茶の本質は「人生というこの不可解なもののうちに、何か可能なものを成就せんとするやさしい企て」にあると。より具体的には「象牙色の磁器にもられた液体琥珀の中に、その道の心得ある人は、孔子の心よき沈黙、老子の奇警、釈迦牟尼の天上の香にさえ触れることができる」としています。
また岡倉の記述からは、西洋社会におけるアジアへの誤解や偏見のひどさ、冷淡さにずいぶん心を痛めていたことが伺われ、茶の湯も東洋の珍奇で幼稚な奇癖の一つとして笑うだろうとしつつも、「おのれに存する偉大なるものの小を感ずることのできない人は、他人に存する小なるものの偉大を見逃しがちである」と言ってみせる箇所などは、彼の芸術観の根底にあるものが端的に表現されているのではないかと思います。
ただ、これらは一朝一夕で出てきた言葉ではなく、後の東京藝術大学の前身である東京美術学校でおこなわれた「日本美術史」の講義や後進の育成、ボストン美術館中国・日本美術部長としての仕事など、長年にわたる啓蒙活動のなかで血肉化したものの表れと言えるでしょう。
そして2月29日にいて座から数えて「原点/立脚点」を意味する4番目のうお座で土星と太陽と水星の3つの惑星が重なっていく今週のあなたもまた、何気ない「小」なるものをこそ大切に過ごしていきたいところです。
「活動」としての哲学
20世紀を代表する哲学者ハンナ・アレントが「最も新しい経験と最も現代的な不安を背景にして、人間の条件を再検討する」べく書いた『人間の条件』は、最後に古代ローマ時代の政治家であり知識人であったカトーの次のような言葉を引いて終わっています。
なにもしないときこそ最も活動的であり、独りだけでいるときこそ、最も独りでない
独りでありながらも、心の奥底の深いところで他者とつながっていくこと。それこそが、人間の営みを「労働/仕事/活動」の3つに分けたとき、古代において最も貴重なものとされながらも、現代においては最も蔑ろにされている「活動」の本質なのであり、「多数性」という人間の条件なのだとアレントは言うのです。
例えば、大きな人生の問いを抱えて、それを共有できる友人と議論したとします。これは生命の営みと直結する「労働」でも、なんらかの成果や人工物を作りだす「仕事」でもありませんが、「ひとりの人間」としての私が、物や事柄を介入させずに、純粋に誰かと深く対話したという点で「活動」なのであり、端的に言ってしまえば、哲学ということもまた「活動」に他ならないのだと言えます。
労働でもなく仕事でもない「活動」の時間をいかに持ち続けていけるか。そんなことを今週のいて座は念頭においてみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
独りだけでいるときこそ、最も独りでない