いて座
静かに燃える暖炉のように
魂の叫び
今週のいて座は、「団交の静寂だん炉のよく燃えて」(鈴木精一郎)という句のごとし。あるいは、魂に深く根差した個人的・社会的な変容への欲望を燃やし、苦難を生き延びること。
「団交」とは、団体交渉の略語で、労働条件の改善などを求め、労働組合が会社や雇用者側と交渉することを意味する。作者は山形在住で、句を詠んだ時にはすでに80を超えていたというから、もしかしたら戦後すぐの光景かも知れない。
右も左も顔見知りや親せきが入り混じる地方での団交は、絶叫する訳にもいかず、かといって何も言わずにいれば何も出てこない訳で、気まずい沈黙が多く流れたことと思う。
冒頭の句では「静寂」を「しじま」と読ませる。これは「しじ(ず)+ま」で、「静まりかえった時間」のことだが、そんな手詰まり状態のなかで、唯一活気があるのは、パチパチと爆ぜる暖炉の火だけ。
社会も変わらなければいけないし、自分自身だって変わりたい。そんな魂の叫びが言葉にはならず、ただ音の連続としてそこに在る。けれど、それが人の心や身体を暖め、闘い続けていくための糧となるのだ。
今週は、自分を深いところで元気づけ、活気づけてくれるものの有難みを肌で感じることができるかも知れません。
頭山満の利他
冒頭の句を詠じていると、思い出す人物がひとりいます。明治から昭和初期にかけての代表的黒幕・頭山満です。
頭山はいわば右翼の親玉のような存在で、時代の本質を見抜く鋭敏な直感と、冷静な判断力を兼ね備えた破格の人物でしたが、彼を破格たらしめていたのは、欧米の帝国主義と国内の封建制という二重の圧政に苦しむ同胞をすべからく救いたいという大きな利他心でしょう。
それは「自分たちが実権を握れば政治はよくなる!」という中国的な漢意(からごころ)ではなく、真心をこめて和歌を詠み、皆でひとつの超越的な存在を仰げば、理想的な共同性が生まれて、この世の中はうまくいくという「大和心」から出てきたものだったのではないかと思います。
官位を就かず、生涯在野にあり続けた頭山を指針にしつつ、今週のあなたも自分の属す共同体をどうすればより愛せるかを真剣に考え、機を見て行動を起こしていくといいでしょう。
今週のキーワード
大和心