いて座
こんがらがった思考をほどく技術としての写生
写生における二つの発見
今週のいて座は、『遊船の冬暖かきパリの旅』(コンラッド・メイリ)という句のごとし。あるいは、変に凝り固まっていた思考がほどけていくような星回り。
日本だと「遊船/船遊び」は納涼のための夏の季語ですが、この句の「遊船」は雪国スイスからやって来た人のパリの“冬の暖かさ”の象徴。それが画家である作者にとっての花の都の心象風景でもあって、掲句に続いてセーヌ川や凱旋門、エッフェル塔、ルーブル宮殿などが自然と心に浮かんでくるはず。
日本とヨーロッパでの季題の感じ方の違いも面白いのですが、同じくらい面白いのが、1943年の『新美術』という美術雑誌に掲載されていたという作者の文章で、そこには日本の若き芸術家へ向けて、日本ではスケッチをデッサンだと思われているが、絵画ではデッサン(素描)をしっかりやるべきだという旨が、俳句における写生の重要さに触れつつ述べられているのです。
確かに、俳句における写生も単なるスケッチではなく、そこには対象となる風景の中から特に焦点を当てたくなるような素材の発見と、それを自分なりに表現してみようとする中での言葉の発見の2つがおのずと含まれてきます。つまり、何より写生には風景を構成する素材に対する感動がなければならないし(掲句では「遊船」)、それが1つの映像となっていく際の言葉の配列の妙が求められるのだということ。
12月13日に自分自身の星座であるいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした感動と映像化をめぐる一連のプロセスをたどっていくことになるでしょう。
写生の要点
俳人の飯田龍太は、写生という手法の要点は「見つめて目を離さない」ことにあるのだとも述べていました。つまり、見つめて、心のなかで普段は感じることのない別途の実感が湧いてくるまで目を離さない。
冬の河原や海を見てそれを描写するのでも、パッとそれを見て瞬発的に「荒涼とした」とか「ひっそりとした」といった言葉をどこかから借用してくるのでは写生とはとても言えないわけです。
ここで改めて掲句の鑑賞に戻ると、「冬暖かき」というのも、実景を目を細めて眺めているうちに、尾を引くように響いてきたのだろう情感をそっとのせた言葉だからこそ、読む側としても描写が鮮やかに目に浮かんできた訳です。
今週のいて座もまた、これはと感じた対象を前にした際には、日ごろ絶え間なく続く思考をいったん止め、いかに俳人の目を持って向き合っていけるかどうかが問われていくでしょう。
いて座の今週のキーワード
俳人の目をもつ