いて座
健全さをつくる
自分の感覚で「おいしい」を探り当てる
今週のいて座は、『檀流クッキング』のごとし。あるいは、日々の生活においてDIY精神を取り戻していこうとするような星回り。
檀一雄と言えば、太宰などと並ぶ無頼派作家であり、私生活でも放蕩の限りをつくした破天荒な人物として有名ですが、一方で相当な料理通としても知られ、何冊か料理本を出しています。
しかしそれは、単なる金持ちの食道楽的なものではなく、9歳の時に実母が出奔し、また父も料理が不得意だったこと、幼い妹が3人いたことからやむなく料理を始めたという生育環境からくるものでもあり、これは「男子厨房に入らず」的な価値観が強固だった当時のことを考えれば、相当に異色な例でした。
そして、異色といえば、『檀流クッキング』という本の中ではさまざまな料理の作り方が紹介されているのですが、何より目を引くのは細かいレシピが載っていないのです。普通のレシピ本なら、「しょうゆ大さじ1、みりん大さじ1、砂糖小さじ1」といった分量の目安が書いてあるところを、『檀流クッキング』は「味がうすいと思ったら、醤油をかけ、薬味がほしいと思ったら、針ショウガなど、とても合うはずだ」といった具合で、この通りに作ろうとすれば、否が応でも自分なりの感覚をフル回転させ、自分がうまいと感じる料理をみずから追求していくことになるという寸法です。
8月31日にいて座から数えて「基盤」を意味する4番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、食生活を自炊中心に回していくことから、自身の快楽を攻めの姿勢でつくりあげていく道を整えていくべし。
柳宗悦の「健康の美」
民藝運動の父・柳宗悦は、日本全国をめぐって各地の手仕事に触れた経験をもとに『手仕事の日本』という民藝案内書をまとめました。その中で、彼は日本がいかにすばらしい手仕事の国であることへの認識を呼びかけると同時に、「工藝の美しさはどんな性質のものでなければならないのか?」という問いを立てた上で、みずから次のように答えていました。
どんな性質の美しさも、「健康」ということ以上の強みを有つことは出来ません。なぜかくも「健康さ」が尊いのでしょうか。それは自然が欲している一番素直な正当な状態であるからと答えてよいでありましょう。
この世にどんな美があろうとも、結局「正常」の美が最後の美であることを知らねばなりません。凡ての美はいつかここを何か平凡なことのように取られるかも知れませんが、実はこれより深く高い境地はないのであります。
単純さと健全さとは極めて深い間柄にあります。日本で深い美の姿として、いつも讃えられる「渋さの美」は、要するに単純な姿を離れては存在しないのであります。
今週のいて座もまた、柳が言わんとした「健康美」や「渋さの美」ということを、日々の生活の中で、どうしたら成立させられるか、改めて考え実践してみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
当たり前のことを当たり前に