いて座
我と汝
重ねた熟慮と静けさは比例する
今週のいて座は、『鳥のうちの鷹に生れし汝かな』(橋本鶏二)という句のごとし。あるいは、強き者としての自覚をスーッと深めていこうとするような星回り。
鷹は春頃に、山地の樹上高くや断崖に巣をつくり、子を育む。その鋭く滑空する様や、力強いイメージから「空の王者」ともされる鷹ですが、掲句では明らかに、新たに生まれた鷹の子に自分自身を重ねています。
当然それはみずからに備わる強さということをよく知っているから可能なことで、ここで作者は新たに生まれた強き者の運命と向きあいつつ、自身の強さやパワーを果たしてどのような形で使い尽くすべきかを十分な熟慮をへて、心に決めていこうとしている訳です。
得てして本当に強い者やたくましい者というのは、一目見ていかにも強そうな顔をしていたり、やるぞやるぞという気配が漏れ出たりしておらず、かならず内に秘めた静けさを伴っているものですが、こうした気迫のこもった句に触れると、そういうことが細かい理屈を抜きにしてスーッと腑に落ちてくるはず。
同様に、20日にいて座から数えて「力の高揚」を意味する5番目のおひつじ座で新月(日蝕)を迎えていく今週のあなたもまた、自身の力の使い道や留意点について、改めて自問自答を重ねていくべし。
「稲妻が走る」
例えば、鉄血宰相として知られ、そのカリスマ性と実行力で19世紀ドイツ一帯をまとめ、統一を実現させたビスマルクには非常に興味深いエピソードがあり、それは家族との会話として記録された次のような言葉の中に端的に表れています。
私はしばしば素早く強固な決断をしなければならない立場になったが、いつも私の中のもう一人の男が決断した。たいてい私はすぐあとによく考えて不安になったものだ。私は何度も喜んで引き返したかった。だが、決断はなされてしまったのだ! そして今日、思い出してみれば、自分の人生における最良の決断は私の中のもう一人の男がしたものだったことを、たぶん認めねばならない(互盛央、『エスの系譜』)
なんと、鉄血宰相としての重要な判断は、自分が考えて決断したのではなく、「自分の中のもう一人の男」がしたと言うのです。つまり、ビスマルクにおいては、「私が考えるich denke」という時の“考え”とは自分が意図的に案出したものではなくて、まるで「稲妻が走るes blitzt」ように自然と思い浮かび、時にはその内容に自分自身でも戸惑ってしまうような代物だったという訳です。
その意味で、今週のいて座もまた、いったん「それes」がしてしまった決断をいかに「私ich」が引き受けていけるかということがテーマとなっていくでしょう。
いて座の今週のキーワード
「自分の人生における最良の決断は私の中のもう一人の男がしたものだった」