いて座
喉の奥から飛び出てくるもの
一茶の反転
今週のいて座は、『闇夜(やみのよ)のはつ雪らしやボンの凹(くぼ)』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、こういう語感がいいやという感覚を思い出していくような星回り。
「ボンの凹」はうなじの中央の少しくぼんだところで、神社にお参りした時などにも反応がきたりする敏感なところですね。
作者は掲句を詠んだ4年前に52歳でやっと結婚し、江戸から郷里である北信濃に移って居を構える。その2年後に待望の第一子を授かるが生後1カ月足らずで死亡。その後、病気をしたり、生活のために各地の弟子を回ったりと何かと苦労しつつも、この頃にはすっかり定住者らしい顔つきとなり、土着の垢がついて黒ずんできたのでしょう。
それくらい、掲句には田舎調のリズムがあり、諧謔(かいぎゃく)がある。何より、こういうジーンと染み渡るような寒さ、まったき暗闇というのは、江戸のような開けた平地のものではなく、山に囲まれた土地のもの。そういう寒い闇に裸体でさらされているボンの凹、そこにひやりと雪片がさわって、思わず喉の奥から言葉が飛び出してきたわけです。
よくよく聞いてみると、それがすっかり洗練された都会の言葉でなく、田舎者のそれになっていたことに作者は心中複雑になりつつも、どこかでホッとしてもいたのではないでしょうか。
23日にいて座から数えて「受発信」を意味する3番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の発する響きがどんなものになっているか、改めて確かめてみるといいでしょう。
石垣の「くらし」
石垣りんもまた15歳で江戸へ奉公へ出された一茶と似て、15歳で日本興業銀行に事務見習いとして就職し、以後定年まで一家の大黒柱として働き通しながら詩作を続けた苦労人で、詩の才能が開花したのは40代に入ってからでした。
食わずには生きてゆけない。
メシを/野菜を/肉を/空気を/光を/水を/親を/きょうだいを/師を/金もこころも
食わずには生きてこれなかった。
ふくれた腹をかかえ/口をぬぐえば/台所に散らばっている/にんじんのしっぽ/
鳥の骨/父のはらわた/四十の日暮れ
私の目にはじめてあふれる獣の涙。
スネをかじっているあいだは分からなかった親のありがたみも、今度は自分がかじられる番になるとやっと身に沁みて分かってくるものですが、そうした生の繰り返しや哀れさが、「四十の日暮れ」という言葉でぎゅっと凝縮して、最後の一行でカタルシス(浄化作用)に至っていく。声に出して読んでみると、まるで般若心経のお経のようでもあります。
今週のいて座もまた、生きることにまつわるぬぐいがたいあさましさを噛みしめつつも、そうして感じてきたことを「響き」へと昇華していけるかどうかが問われていくはず。
いて座の今週のキーワード
苦闘の浄化、その果実としての響き