いて座
この世のものではなくなっていく
フィクションの役割
今週のいて座は、夜をかける少女のごとし。あるいは、世間のくびきから解放されその“外”へと連れ出されていくような星回り。
『干物妹!うまるちゃん』というテレビアニメのエピソードのなかに、こんな話がありあます。主人公である「土井うまる」が同居する兄に内緒で、夜のコンビニに買い物に行くシーン。まだ高校生になったばかりのうまるにとって、深夜の外出はそれだけでちょっとしたスリルと危険を伴うものなのですが、いつもの通学路が夜になるとまるで別世界の様相を呈していることに気付いたうまるは、戸惑いながらも新鮮な驚きと発見にみちた夜の冒険へと次第にのめり込んでいく…。
こうしたアニメの中の「夜をかける少女」が、どこか根源的なところで私たちの胸をときめかすのは、一体なぜなのか。振り返ってみれば、90年代には未成年の少女が夜の街を出歩くだけで援助交際目的を疑われて声をかけられることがあったし、ネットに書き込まれた怖い話や江戸時代の怪談などでは、真夜中に女性が道を歩いていれば、それはこの世のものではないことは常識だった。
そう考えると、先のアニメのシーンというのは、現実世界において長らく女性たちが持ちえなかった権利であり、悲願でもあったと同時に、安全な現実世界に「引きこもり」がちな男性主体を彼岸へと連れ出すフィクションとしても機能していたのだということが分かってきます。
16日にいて座から数えて「非日常」を意味する9番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、停滞しがちなみずからの日常や人生に流動性をもたらしてくれるという意味で、何が必要不可欠なのかを改めて見極めていくべし。
2つの異なる「変身」
子どもの頃にセーラームーンに親しんでいた世代ならば、普通の高校生である月野うさぎが正義の美少女戦士セーラームーンに変身するとき、光に包まれて一瞬だけ裸になるシーンがあるということをうっすら思い浮かべることできるはず。そして、これもまた先に述べたようなある種の流動性体験の典型例と言えるのではないでしょうか。
子どもの頃は、そうした変身シーンに垣間見える、脆さと恍惚とが危ういバランスで同居しているような、あるいは、真実が一瞬そこに現れているような、そんな体験を自分も当たり前のように経験できるはずだと考えていた訳ですが、大人になるにつれ、いかにそれが実際には体験しがたいことなのかを痛感するようになってくるのではないでしょうか。
というのも、大抵の人はみずからの脆さや傷つきやすさを覆い隠し、なかったことにしようと、化粧や筋トレ、出世や結婚などによって「変身」しようとしていくから。しかし、その点セーラームーンはまったく違って、脆さや傷つきやすさを認識し、その中で感じ得た恍惚を通して新しい自分の顔を表出していこうとしているのです。
今週のいて座もまた、そうした2つの異なる「変身」の仕方があるのだということをよくよく胸に刻んでいきたいところです。
いて座の今週のキーワード
自分に魔法をかける