いて座
ものを忘れてどこまでも
忘却の河をこえて
今週のいて座は、『おでん屋のあたりまで君ゐたやうな』(西村麒麟)という句のごとし。あるいは、バーチャルな世界でどこまでも遊び倒してしまうような星回り。
書いてることは危ういんだけど、それを詠んじゃう感じが、なんともかわいい一句です。
途中で居なくなっちゃった「君」の記憶が「おでん屋のあたり」であやふやになっちゃうというのも、単なる酔っぱらいというより、いったんそれまでの記憶が初期化され、バーチャルな世界に生まれ変わったアバターという設定で詠んでいると考えるとしっくりくる。
まるで、アバターとして生まれ変わった自分の最初のつぶやきを、そのまま句にしようとあらかじめ決めていたんです、とでも言いたげというか……。
いずれにせよ、「おでん屋」とは言っていても、すでにそこには社会のずっしりとしたリアリティみたいなものは消し飛んでいて、どこまでも「君」と僕と、この世界の行く末とが交互に語られていくようなセカイ系のアニメのワンシーンを見せられているような印象さえ受ける。この人は、そういう設定の自分でしか発見できないことを俳句というツールを利用して探しているのかも知れません。
その意味で、25日にいて座から数えて「精神と時の部屋」を意味する12番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、ちょっと「記憶を失ったアバター」にでもなったつもりで過ごしてみるくらいがちょうどいいでしょう。
流れゆく水にならう
古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスが遺した「誰も同じ川に二度入ることはできない」という言葉のように、川の水は常に流れており、同じように見えても必ずそこには昨日とは違う水が流れている訳ですが、言われてみれば、当たり前の感覚を取り戻すために人はものを忘れたり、旅に出たりするのかも知れません。
そして今のいて座の人たちには、いつも以上にそんな旅人の風情が醸し出されているように感じます。それはものごとをコンクリートで固め、現実のたえず揺れ動いて捉えどころのない側面に蓋をして封じてしまうような意識やライフスタイルへの違和感が、心の奥底からぶくぶくと湧き続けているからなのかも知れません。
現実の奥底に流れる「水の動き」に同調し、自分のいのちを担保にして風景と向かい合う。「舟」の底から感じられる自然や死のなまなましい音に耳をかたむけながら、ときに言葉を紡ぎ、櫂(かい)を漕いで、時空をわたる舟を進めていく。そんな漂泊の旅人の精神に、今週は自然と吸い寄せられていくでしょう。
いて座の今週のキーワード
上善如水(じょうぜんみずのごとし)