いて座
物語を人間化していくために
リアリティの再編成
今週のいて座は、「際(きわ)」という言葉のごとし。あるいは、おのれが再編成される地点まで自身を運んでいこうとするような星回り。
辞書をひくと、「際」とは「もう少しで別の物になる、その物のすぐそば。すれすれのところ」を意味する言葉と出てきます。
それは中心から完全な外部へと出ていく手前の周縁であり、ビルや建物が隙間なく並ぶ都心から空き地や畑などが目立つ郊外へと景色が変わっていく境い目。そしてこちらとむこうとを繋ぐ媒介部分であり、出会いと別れの震源地として、ないしそこに漂う神秘的な予感によって、つねに人々を惹きつけては物語を生み出す領域として機能してきました。
例えば、東京の「際」というと大田区蒲田、北区赤羽、川崎、町田、立川など、いずれも表参道や丸ノ内などのきらびやかな繁華街とは趣きを異にしつつも、中心ではむしろ居心地の悪さを感じるような多くの人が飲み歩き、時に失敗と後悔を織り交ぜながら、特有の香ばしさと怪しさとを醸し出している一帯である点では共通しているはず。
それはおそらく、「際」と呼ばれる一帯が、現在自分がこの世界や周囲と結んでいる委縮してしまった関係性を開いて、偶然性に満ち満ちた異なる関係性を呼び込む形で機能することで、時に未来を取り戻したり、はたまたますます過去に囚われたりしつつも、そこを訪れる人々のリアルを変え続けているからなのでしょう。
同様に、7月29日にいて座から数えて「旅」を意味する9番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけそうした「際」として機能している一帯に足を運んでみるべし。
すくい取るべきものを見出すために
起こった瞬間においては、その価値や意味が分からない出来事があります。それは人の心の奥深くに入り込み、長い時間をかけてかたちをなし、再び意識の表面に浮上してきたところで、ようやくすくい取られていく。
それは誰かに言われた言葉だったり、目にした光景だったり、あるいはあるひとりの人物の影響そのものだったりと、人によってまちまちですが、私たちの心には大抵はどこかでそういうものが2、3ひっかかっていては、すくい取られる瞬間を待っているのではないでしょうか。
須賀敦子の文章はどこか、そんなかすかな記憶の底からそっとすくい取られたようにして綴られていますが、例えば下記の箇所などは今週のいて座の人たちがなすべきことを簡潔に暗示しているように思います。
「線路に沿ってつなげる」という縦糸は、それ自体、ものがたる人間にとって不可欠だ。だが同時に、それだけでは、いい物語は成立しない。いろいろ異質な要素を、となり町の山車のようにそのなかに招きいれて物語を人間化しなければならない。
いて座の今週のキーワード
特有の香ばしさと怪しさとを