いて座
もののはずみに身を任せる
記憶を拾い上げる
今週のいて座は、『手花火の柳が好きでそれつきり』(恩田侑布子)という句のごとし。あるいは、あっさりと割り切れないものにこそ心惹かれていくような星回り。
淡い恋の思い出を詠んだ一句。この「柳が好きで」という言葉の主体は2つあるのでしょう。その人と手花火で遊ぶ機会があり、自分が「柳」が好きでそれをそれとなく呟いたら、思いがけずその人も「柳」が好きだということがわかった。それでひと時こころは弾んだが、決定的な関係になるには至らず、結果的に「それつきり」になってしまった。
そんな記憶が手花火の柳を見るたびに、ちらりと脳裏をよぎりはすれど、おそらくこれまで口に出したことはなかった。それが何かの拍子で、こうして歌になってしまったのかも知れません。
関係が決定的に中に進むかどうかがもののはずみなら、歌になるかならぬかももののはずみであり、確かだと思っていた関係に別離が訪れるのももののはずみ次第なり。
そうであればこそ、人は一時の恋に命懸けになるのであり、一方でそれをあっさりと忘れることもできる。ただ、時どきその両端まで行き着かずに何かが引っかかってしまうことがあり、そんな時にこうした歌が生まれるのでしょう。
同様に、7月20日にいて座から数えて「もののはずみ」を意味する5番目のおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、勢いだけで突き進むのではなく、今はむしろ心の引っかかりをこそ大切にしていくべし。
心を虚しく思い出す
「多くの歴史家が、一種の動物に止まるのは、頭を記憶で一杯にしているので、心を虚しく思ひ出す事が出来ないからではあるまいか」という小林秀雄の言葉を借りれば、今週のいて座の人たちも、まさに心を虚しくして自分にとって必要であり、またかけがえのない記憶を思い出していくことができるかどうかが問われているのでしょう。
消えてなくなったら寂しい、思い出せたら嬉しい、そんな当たり前の感情を、しばしば私たちはつまらない意地や屁理屈で台無しにしてしまいます。小林は、先の言葉の前に次のような一文を添えています。
思ひ出が、僕等を一種の動物である事から救ふのだ。記憶するだけではいけないのだらう。思ひ出さなくてはいけないのだらう。(『無常という事』)
今週あなたは、いったい何を思い出そうとしているのでしょうか?もし何か不意に想起されてきたものが出てきたなら、しっかりとそれを現在の自分に結びつけ、その結びつきを通して力を得ていくことがテーマとなっていきそうです。
いて座の今週のキーワード
「たまたま」こそを大切に