いて座
でっかくくくればお友達
つながりの感覚
今週のいて座は、『潜りゆく馬手貝(まてがい)すつと立つ』(えのもとゆみ)という句のごとし。あるいは、頑なで排他的なリアリティを突破していこうとするような星回り。
鞘に収めた馬手差(刺刀)に近い形状から名付けられた「馬手貝」は、潮干狩りとともに春の季語で、掲句の前後には「砂を掘る馬手がばたりと裏返る」と「潮満ちてまだ見えてゐる馬手の穴」という句が置かれています。
掲句では、浅瀬から水底へと潜っていく馬手貝の姿勢が、初めは斜めだったものが、すっと垂直になった瞬間が捉えられている訳ですが、なにかここには自然の奥深くに秘められた神々しい意志のようなものが感じられます。
馬手貝ひとつにここまで向き合うことは普通なかなかありませんし、できないと思いますが、作者の自然に対する深い敬意がそうした瞬間を捉えることを可能にしたのでしょう。ここでは、すべての生命とのつながりの感覚を通じて、自身と類似性によって結びついた地上のそれとは別種の“家族”を見つけているのだとも言えます。
同様に、4月13日にいて座から「共感で結びついた共同体」を意味する4番目のうお座で木星と海王星が重なっていく今週のあなたもまた、いつも以上に常識の枠をとっぱらって友情や感情的な共感の輪を広げていくことができるはず。
一個の完全な自然人
ほとんどの現代人のような文明的な人間にとって、トルストイの『コサック』に登場するエローシカ叔父が言うような「自然と一つに成ること」がどれほど困難なことであり、またその体験がどれほど思いがけない体験であるかはなかなか想像できないかも知れません。
それほどに、人間における自然性と自意識の矛盾は根源的なものであり、しょせんは誰にも解決できない問題なのですが、その一方でトルストイという文学史上に限らず歴史上稀に見るじつに不思議な人物は1個の完全な自然人の姿を体現していました。
彼は老境枯淡の域に入ってなお、いやますます異常な生命力を示し、若い人たちと一緒に畑仕事をしたり、一日中テニスをしたり、そうかと思うと今度は子どもたちの輪の中に入って部屋中を駆けまわったり、スケートに興じてはしゃぎ出し、ついには数十キロもの自転車旅行へまで出かけて暴れまわっていたのです。
彼は一方では近代的人間の根源的病いとも考えられている自意識過剰の極めた人間でしたが、その一方で鬱蒼たる太古の原始林のような、なまなましい生命の樹液のような粘っこさ、息をつくのも苦しいほどの野生的豊穣を根底に湛えることのできた人間だったのです。
彼ほどにとは言いませんが、今週のいて座もまた、自身の本能のおもむくままに思い切った理想の提示や追求を掲げてみてはいかがでしょうか。
いて座の今週のキーワード
野生的豊穣の共有