いて座
新たな小宇宙にて
深い余韻とともに始まる
今週のいて座は、『烏(からす)啼き長き昼寝の覚めにけり』(木村蕪城)という句のごとし。あるいは、長い夢から目を覚まさせてくれた呼び声に、応えていこうとするような星回り。
作者が病気で療養していた際に作られた一句。確かに、静かに安静にしているだけだと、「長き昼寝」にもなってしまうというもの。
同様に、ふと昼寝から目を覚ましたときというのは、一瞬自分がいつどこにいるのか、すっかり忘れてしまうこともめずらしくない。それに掲句の場合、慌ただしく汗水を流す勤労生活から、ありあまるほどの自由な療養生活へと突如ほうりこまれたところだった訳ですから、なおさら前後不覚の度合いは深かったかも知れません。
しかし、掲句に深みをもたらしているのは、「長き昼寝」という表現以上に、「烏啼き」によるところが大きいでしょう。古池に飛び込んだ蛙のたてた“水の音”よろしく、この「烏」の啼き声は読者のこころに余韻ある響きを残し、それは現実の世界と夢の世界の双方へと水波紋のように広がっていくはず。つまり、烏の啼き声以前と以後とで何かが決定的に変わってしまったのです。
同様に、4月1日にいて座から数えて「再誕生」を意味する5番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ深い余韻を残してくれる響きに浸ってみるといいでしょう。
うつし世は夢 夜の夢こそまこと
よく考えれば当然のことですが、人間は本など1冊も読まずとも生きていけるし、少なくとも小説などのフィクションなどほとんど読まず、それでいてごく普通の人生を送っているという人だって決して少なくないでしょう。
ただ、その一方で冒頭の江戸川乱歩の言葉をそのまま自分事として生きている人もいるのです。本を読んでいないときの自分が「表」や「建前」の人生だとするなら、本を読んでいるときこそが「裏」や「本音」の人生で、しかも1冊ごとに違った人生を生きていく、といったように。
いや、どちらが裏でどちらが表かなどということは、本質的にはどっちでもいいのかも知れません。二重生活をしていて、それらが離れては交錯しつつ、入れ替わっていくといったリアリティーとの距離感こそがたまらなく魅力的なのでしょう。だから、読むだけで終わらせずに役立てようとか、本を読むために使った時間の元をとろうだとか、そういったアウトプットにまつわる話というのはあくまで余禄であり、副産物に過ぎないのです。
今週のいて座において、例えばそんな本を読むことに相当するものは一体何なのか。改めて問い返してみてほしい。
いて座の今週のキーワード
虚実の交錯