いて座
ゆさぶりをかける
「とつぱづれ」な富士山
今週のいて座は、「なの花のとつぱづれ也ふじの山」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、ここぞというタイミングで思いきり傾(かぶ)いていくような星回り。
「とつぱづれ」とは新潟あたりの方言で、もとは過失ということを指したものの、そこから「はずれる」の意味で用いられ、「何を間違ってはずれやがったんでぇ」という調子で、ここでも「とんちんかんなくらい端っこ」というニュアンスで使われているのでしょう。
そうして富士山という、日本人にとってなにより尊い神さまのような存在を取り上げつつも、「菜の花畑のはじっこに、やっと棒にでも引っかかるかのように富士山がいるわい」というくらいの、じつに痛快な物言いでひと息で言い切ってみせる絶妙さというのは、なかなか見れるものではないように思います。
まるで北斎の「富嶽三十六景」のうちの1枚のように、一面をおおう菜の花の黄色に画竜点睛のように富士山の青と白が打たれる色彩の鮮やかな対比に、大胆で思いがけない構図のおもしろさと、余計なものを無視して切り捨てる単純化の原理という、日本絵画の伝統に見られる特徴を俳句という言語芸術のうちに見事に表現している訳です。
18日にいて座から数えて「目指す最高のもの」を意味する10番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、一茶くらいの絶妙さで、常識や枠組みをゆさぶっていきたいところです。
物語をいかに作るか?
キューバの映画学校で若手脚本家やその卵を対象に行われた、30分のテレビドラマの脚本を仕上げるためのワークショップや討論をまとめたガルシア=マルケスの『物語の作り方』には、ある印象的なシーンがあります。
それは、誰かがヘリコプターが雄牛を吊るしてプールの上を飛ぶシーンを提案すると、マルケスが、これで決まりだ、そのシーンで始めればいい、とまで言う。こういうシーンが浮かんだら、もう勝ったようなものなんだと。あるいは、昭和天皇崩御の記事の写真から、皇后のさしていた雨傘に着目し、ここにインスピレーションを生み出す何かがあると訴えるのです。
こうした決定的なディティールやシーンから、ひとつの物語がたちあがっていくということについて、マルケスは参加者にけて次のようにも言い直しています。
このストーリーには気違いじみたところがない、そう言いたいんだ。君たちは真面目過ぎるんだよ。
つまり、すべてを原因と結果の連鎖でつなぐ必要はないし、むしろどこかに必ず気まぐれな、ただ、なにか神秘的な要素がなければならないのだと。そして今週のいて座もまた、自分や自分の人生にはどうしても必要な飛躍を見出し、意図的に取り入れていくことがテーマとなっていくでしょう。
いて座の今週のキーワード
決定的なディティールやシーンをつくる