いて座
道すがらの石けり遊び
沈黙と雄弁のはざまにのびる道
今週のいて座は、「空耳か炉咄かるく手で押さへ」(緒方句狂)という句のごとし。あるいは、まだ言葉になっていない領域をみずから切り開いていこうとするような星回り。
作者は盲人にも俳句の世界が開かれていることを身をもって示し、彼が現われて以降、他の盲俳人の名も見え始めたという点で、その先駆となった人物であり、掲句はそのカリスマ性と存在感の大きさがじつによく現われています。
この句は今まで囲炉裏を囲んで話していた声がぴたりと止まって、ただ外の凍るばかりの静寂と触れた瞬間の、ただ炉火ばかりが赤々と燃えて人びとの顔を照らしている、そんな冬の静けさをじつにうまく捉えています。もちろん、その瞬間をつくりだしたのは、炉辺の人びとの話を手でおさえ、耳を澄ませる作者自身にほかなりません。
彼はいつどこで誰に囲まれようとも、日ごろからたえず静寂に人一倍神経を研ぎ澄まし、それゆえに盲目でありながら、生き生きとして豊かな言葉を沈黙から紡ぎ出し、目明きに伍してきびしい芸術の世界で堂々と歩を進めることができたのでしょう。
30歳で失明し、46歳で食道癌で亡くなるまでの16年間にわたり、そうして作者は沈黙と雄弁のはざまにわずかに伸びるきびしい隘路をみずから切り開いていったのです。
同様に、2月1日にいて座から数えて「伝えること」を意味する3番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分は何を伝えていきたいのか、そしてそのためにはどこに向けて精神を研ぎ澄ませていかなければならないのか、改めて問われていくことになりそうです。
星と石
ロジェ・カイヨワが生前最後に残した著書であり、ギリシアの川神に託して自らの思想の遍歴を語った『アルペイオスの流れ』には次のような記述が出てきます。
私は石が、その冷やかな、永遠の塊りの中に、物質に可能な変容の総体を、何ものも、感受性、知性、想像力さえも排除することなく含みもっていることに気づきつつあった。
と同時に、絶対的な啞者である石は私には、書物を蔑視し、時間を超えるひとつの伝言を差し出しているように思われるのだった。
占星術では人間の中に星を読みますが、時にこうした「石」が読み取れる時があります。
いかなるテキストももたず、何ひとつ読むべきものも与えてくれぬ、至高の古文書、石よ……(同書)
つまり、人はときどき自身の中に密やかな言葉という名前の驚くべき沈黙を見出し、その前にひれ伏すのでも、踏みつけるのでもなく、ただそばに在っておのずから語り始めるのを待たなければいけない状況に直面するのです。その意味で今週のいて座もまた、自分でも説明のつかない出来事や、衝動、感情に対しても慎重かつ粘り強く関わってみるべし。
いて座の今週のキーワード
時間を超えるひとつの伝言