いて座
闇に投げ込まれる
「光を飲みこむ闇」
今週のいて座は、「金亀子擲(なげう)つ闇の深さかな」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、「闇の深さ」を取り戻していこうとするような星回り。
「金亀子」と書いて「こがねむし(黄金虫)」と読む。明治の終わりに詠まれて句ですが、その頃の日本家屋にはまだ網戸がなく、夕方になると灯りを慕ってさまざまな虫が飛び込んできたのだそうです。
中でも黄金虫は手ごろな大きさで、捕まえるとどこかへ投げたくもなるもの。作者もふと手に取って、戸外に放り投げたのでしょう。すると、キラッと光ってすぐに闇のなかに吞み込まれていった。
黄金虫の光から、闇の深さへ一気に転換していくことで、闇がいっそう濃く深いものに感じられてくるはず。この「光を飲みこむ闇」とは、はるか昔より人間世界を取り囲む未知の自然に投影されてきた伝統的なイメージですが、近代化していたるところに電気の灯りが届くようになって以降の社会では次第にその本来の威厳が失われつつあるものと言えます。
そして、自然への畏敬の念を抱く機会をすっかり失ったことで、気候変動などより深刻な危機をみずから招いてしまっている現代人は、いつしか黄金虫を戸外に投げる側から、闇に投げ込まれている黄金虫の側へと立場を移してしまったのではないでしょうか。
20日にいて座から数えて「未知との対峙」を意味する9番目の星座であるしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした畏敬の念を感じさせてくれるものとしかと向きあっていくべし。
古い存在感覚
古代キリスト教会最大の教父アウグスティヌスは、自然の風景を見ているときに記憶が大きく動くのだ、と述べていました。いわく、「人々は外に出かけていき、山の高い頂、海の巨大な波、河の広大な流れ、広漠たる海原、星辰の運行などに驚嘆します。しかし自分自身のことは置き去りにして」いるのだと。
それ等の自然はみな、自我の管理下に置かれた意識領域ではなく、広大な無意識領域においてその真の姿をあらわすからこそ、人はその巨大さに思わず圧倒されつつ、自分の中にもまた彼らと同じような霊的働きが湧いているのを感じるのかも知れません。
そしてそれは自分が強固なエゴを持ち、社会の中で認められたいという承認欲求を持った人間であることを一瞬でも忘れ、より古層の存在感覚を思い出す瞬間でもあるはず。
今週のいて座は、そんな目に見えぬはずのものを見て、より深く大きななにかに包まれている自分を感じなおしていくことがテーマと言えるでしょう。
今週のキーワード
ちっぽけなわたしの感覚